kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

「悪書」とされる児童書

本日、ニュージーランドで児童文学賞を受賞した作品が、発禁処分を受けたというニュースが報道されていました。

www.afpbb.com

 

問題となった作品は、先住民マオリの少年を描いたもので、少年は奨学金を得て名門寄宿学校に入学するものの、人種差別や薬物問題の中で苦闘するという物語だそうです。

問題となったのは、この物語のなかにいじめやセックスの描写が含まれていることだそうで、保守派のロビー団体が同作品のなかのこれらの描写に抗議し、発禁という流れになった模様。

以前、このブログの記事にも書きましたが、児童文学において性(セックス)はタブーとされていて、ここでもそれがひとつの問題になっていたことがわかります。

 

さて、この問題に興味をもち、「悪書」として発禁にされたり公共図書館などから児童書が撤去されたりするニュースについて調べていたところ、昨年の7月にシンガポールの国立図書館が、同性愛を題材にしたことを理由に3冊の児童書について破棄処分を決定していたことを知りました。

www.afpbb.com

その後、この処分に対して抗議活動が行われ、最終的には、「児童から一般の書架に移され、親が子どものために借りることは可能になった」そうなのですが、このような問題がいまだに(1年前です!)生じていたということに驚かされます。

 

シンガポール国立図書館が「破棄処分」を下そうとした児童書3冊のなかのうち1冊は、『タンタンタンゴはパパふたり』は、ニューヨークの動物園であった実話をもとにした絵本で、ペンギンの同性愛カップルに育てられたペンギン・タンゴのお話です。

 

 

実話にもとづいた動物絵本で、もちろん過激な性描写があるわけでもありません。それでも、この本が「破棄処分」にされかかり、最終的な判断としても「児童書コーナーには置けない(=子どもが自由に手にとれない)」とされているわけです。

しかしこれは、シンガポールだから特に問題になったというわけではなく、『タンタンタンゴはパパふたり』の原作本は、2006年から2010年まで、毎年9月下旬に米国で開催されている「禁書週間(Banned Books Week)」の際に発表される、前年度に撤去要請が多かった本ベスト10の常連さんだった・・・どころかトップ独走状態だったようです。

www.nypl.org

 

昨年度の「禁書週間」で発表された、“撤去要請の多かった本”ベスト10には、さすがにランクインしていませんが、それでもまだまだ「同性愛」を理由に撤去要請のあった本がランクインしている状況のようです。

セクシュアル・マイノリティをあつかった児童文学としてはかなり先進的であり、LGBTをあつかった文学賞「ラムダ賞」まである米国ですら、このような状況ですから、この問題の根深さを感じてしまいます。

 

なお、今年(2015年)のラムダ賞・「LGBT Children’s/Young Adult(LGBT児童文学/ヤングアダルト)部門」の受賞作品のなかには、すでに邦訳されている文献もある模様なので、さっそく入手して読んでみようと思います。