kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

絶望的な社会と、ロバストなわたしたち~「マイ・チャイルド: レーベンスボルン」

東京ゲームショウ2018のインディーズ・ゲーム・コーナーで出会った、「マイ・チャイルド: レーベンスボルン」をついにクリアしました。

 

kimilab.hateblo.jp

 

このゲームについては、すでにいろいろなところで、レビューも出ているようなので、どのようなゲーム・アプリなのかについては、そちらをご参照ください。

マイ・チャイルド・レーベンスボルンのレビューと序盤攻略 - アプリゲット

 

この作品、「東京ゲームショウ2018」で公開された当初やそれ以前は、「ノルウェー現代史の闇」を扱った作品であることがクローズアップされていたように記憶しています。

たとえば、この記事だと、「レーベンスボルン」についての詳しい解説とともに、このゲームが「ノルウェー現代史の闇」を扱っており、それを後世に伝えるために開発されたゲーム・アプリであることが紹介されています。

www.4gamer.net

 

しかし、東京ゲームショウ2018にあわせた日本語版リリースのあと、実際にこのゲームを日本語でプレイする人々も多くなり、日本のゲーム・カルチャーのなかで紹介されていくなかで、かなりこのゲームの紹介のされ方が変わってきたなぁ…という印象を持っています。

こちらは、上と同じ、4game.netの記事のはずなのですが、「ほぼ(日刊)スマホゲーム通信」として掲載される記事だけあって、「スマホゲーム・レビュー」の語り口や用語法にあわせて、このゲームが語られているのが、面白いです。

www.4gamer.net

 

「シリアスなアドベンチャー…!

なるほど、ゲーム・ジャンルとしていえばそうだよね、と言わざるを得ない、シンプルな紹介。これを見て、「そ…そうか」となってしまうのは、わたしだけなのでしょうか。

しかし逆に、「スマホ・ゲーム」という語り口から見えてくること、考えさせられることもあります。わたしが考えさせられたのは、この記事の最後にある、シリアスな作品だが,ゲームバランスは比較的マイルドなので,当時の歴史などに興味を持ったらぜひプレイしてほしい」という一文。

 

「ゲームバランスは比較的マイルド」

「ゲームバランスは比較的マイルド」

「ゲームバランスは比較的マイルド」


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こちらは、各章をクリアしたあとに出てくる画面のひとつなのですが、さすがに「『マイルド』とはなにか」と言いたくなってしまいます。

 たしかに、わたしはその章をクリアしたわけですし、この記事を書いている時点では、全章をクリアして、とりあえず、バッド・エンドにはならなかった(とてもじゃないけど、ハッピー・エンドとはいえない…というか、ハッピー・エンドになんてなれないのではないかと思います)わけですが、いくら章をクリアしても、全章クリアしてエンディングにたどり着いても、自分が「できなかったこと」「やるべきでなかったこと」はいつまで経っても残り続けます

 

たとえば、上の画面で示した章をクリアしたとき、わたしは、「あなたを含む55.5%の人が、ドイツ語について注意しませんでした」というメッセージを見て、かなりのショックを受けました。

いくら腐っても、端くれでも国語教育研究者ですので、「クラウス」(ゲームに出てくるわたしの子ども(=マイ・チャイルド))の母語であるドイツ語を「使わないほうが良い」と注意しなかったことについて、わたしは、後悔していません。

でも、(おそらく)そのせいで、彼は、その後、学校でいじめに遭ったし、唯一の友達も彼をいじめる側にまわってしまいました。

多くの人たちはそれがわかっていて、そしてゲームプレイヤーとして「正しい」選択をして、彼のドイツ語を注意したんだと思います。

でも、いくら腐っても端くれでも…以下、略!

いくらゲームでも、フィクションでも、自分の子どもに、「母語を使うな」とは言えないです。それがいくら、ゲーム上「正しい」戦略でも。

でも、ゲーム上、有利な戦略をしなかったせいで、きっと、「バッド・シナリオ」には近づいてしまったんだ…と、この画面を見て気付き、ショックを受けたわけです。

 

そんな葛藤を抱えつつ、なんとかゲームを全章クリアしたタイミングで、上記の記事に出会い、この記事のなかで、「ゲームバランスは比較的マイルド」という言葉で、このゲームが紹介されていることを知りました。

 

たしかに「マイルド」なんでしょう。…このゲームが、「マイルド」でなかったら、わたしのような人間は、バッド・エンドめがけてまっしぐらだったと思います。きっと。

 

そして、レーベンスボルンの子どもたちの実話に基づいて作られたこのゲームの、ゲームバランスが「マイルド」であることは、もうひとつ、重要なことを教えてくれている気がします。

それは、どんなに絶望的な社会のなかに置かれていたとしても、わたしたち人間は、そのなかをたくましく生き抜いていくことができるということ。

少なくとも、ゲームバランスが「マイルド」になるくらいには、わたしたち人間って、絶望的な社会を生き抜くロバスト(頑健)な生き物なのではないか。

…そんなことを思いました。

 

各章をクリアするごとに出てくる上記のような画面は、プレイヤーであるわたし自身の価値観を映し出す「鏡」にもなっていて、それが、大きく心を揺さぶられるところでもあります。

ちなみに上の画像だと、わたしは「楽観的」46%、「寛容」46%ということになってます。「厳しい」は7%。

この結果が、自分自身の教育者としての信念や価値観すらも映し出している気がして…、なんだかそのことにも考えさせられました。

 

『マイ・チャイルド:レーベンスボルン』は、300円~400円くらいで購入できるのですが、この金額でこの体験ができるのであれば、ぜひ体験してみたほうが良いのでは、と思います。

ただし、本当に、感情を大きく揺さぶられますし、わたしの知り合いの中にも、わたしがプレイしているのを見て「これは絶対無理!」と言った人もいるので、Android端末をお持ちのかたは、まずはお試し版をプレイしてみてから考えたほうが良いかもしれません。