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Literacy, Culture and contemporary learning

インターン受入担当のための異文化間発達トレーニング~若者のための発達学校(Developmental School for Youth)

East Side Instituteのご厚意で、日本の研究者や実践家、学生のために特別プログラムとして開講された、3泊4日の「Immersion Program for Japanese scholars/students」(3/6~3/10)に参加してきました。

loisholzman.org

「Immersion Program」の名のとおり、朝から晩までみっちりプログラムが詰まった、充実の4日間で、なかなかそこで自分自身が考えたことなど、整理しきらずにいるのですが、少しずつ、できる範囲でまとめていきたいと思います。

 

まず、邦訳されているいくつかの文献でそのプログラムの存在が語られていながら、なかなか詳しい情報が日本に入ってきていない(ように思われる)若者のための発達学校(Developmental School for Youth)」(DSY)について。

www.youtube.com

 

DSYは、貧困コミュニティに暮らす若者たちの発達をサポートするプログラム。

貧困コミュニティに暮らす若者たちは、そもそもコミュニティの外に出ていくことが難しく、貧困コミュニティで生活し仕事をする以外の自分自身を想像することもできないし、また、自分自身が、貧困コミュニティに暮らす今の自分とは異なる存在になれる、と思い描くことも困難な状況です。

つまり、今ある自分自身に囚われて、自ら「なることのできる自分」を狭めてしまっているんです。

 

DSYでは、そんな貧困コミュニティの若者たちに、「なることのできる自分」を拡張して想像する機会を提供します。

 

具体的には、ニューヨーク市に本拠地を置く名だたる企業に、CSR活動(社会貢献活動、慈善活動)の一環として、貧困コミュニティの若者をインターンとして受け入れてもらい、数週間、有名企業での生活を経験してもらう、というプログラムです。

 

これらの有名企業において人びとが通常行っているパフォーマンスー話し方、振るまい方などーは、若者たちが慣れ親しんだ貧困コミュニティのものとは、まったく異なります。

 

DSYでは、若者たちに、今までの自分にはないパフォーマンスをするチャンスを与えることで、若者たちが思い描くことのできる「なることのできる自分」の限界を突破しようとしているのです。

 

日本でも、2007年に、山田昌弘希望格差社会』という本が話題になったりしましたが、そういう意味で、想像力の限界、「なることのできる自分」の限界を突破していこう、とするDSYの発想は、とてもパワフルだと思います。

 

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DSYについては、ロイス・ホルツマン『遊ぶヴィゴツキー:生成の心理学へ』(新曜社)にも紹介されていますが、わたしが、今回のプログラムでぜひ聞いてみたい!と思っていたのは、キャシー・サリット『パフォーマンス・ブレークスルー』に書かれていた、企業側のインターン受入担当へのトレーニングに関してでした。

 

DSYでは、貧困コミュニティの若者たちに対し、企業でのインターンが始まる前に、14週間にわたるトレーニングを実施しています。

この14週間のプログラムでは、ソーシャルセラピーの理論に基づいた、パフォーマンス中心のアクティビティが行われるわけですが、その中で、たとえば、「毎日、職場に行くこと」「遅刻をしないように、時間に余裕をもって職場に向かうこと」などの指導も含まれます。

何しろ、そういうパフォーマンスそのものが、彼らの親しむカルチャーの中にないので、新たなパフォーマンスとして、それらをやってみる必要があるわけです。

 

しかし、わたしにとってより新鮮だったのは、DSYがこのような若者向けのトレーニング・プログラムを行うのみならず、企業の受入担当者(DSYのプログラム担当者は「スーパーバイザー」と呼んでいました)へのトレーニング・プログラムを実施していたことです。

 

キャシー・サリット『パフォーマンス・ブレークスルー』のなかには、彼女がCEOを務めるPerformance of a lifetime(POAL)が、どのようなかたちで、企業の受入担当者へのトレーニングを行っているのかが、少しだけわかるエピソードが記述されています。

そのエピソードでは、意気揚々と、社会貢献のために貧困コミュニティーの若者を受け入れようとした担当者が、トレーニング・プログラムの一環として、「インターン初日」のシーンを即興的に演じています。

インターン初日」のシーンを演じてみるおとを通して、そして、一緒にシーンを演じてくれた「貧困コミュニティーの若者」役のボランティア(DSYの卒業生!)とPOALからのアドバイスを通して、受入担当は自分自身のパフォーマンスのありかたを見直し、パフォーマンスを変えていくというエピソードです。

 

「勝手に休む」「職場に遅刻してくる」「話しかけても、きちんと対応できない」「わからないことを、きちんと聞けない」…などなど、日本のインターンシップだったら、即座に「最近の若者のコミュニケーション能力ガアアア!!」とはじまりそうな問題を、企業受入担当者へのトレーニング・プログラムの中で、受入担当者がパフォーマンスを変えれば解決しうる問題、異文化間コミュニケーションの問題として扱っているというのが、まず面白いと思いましたし、それがどのくらいの時間をかけて、どのようなプログラムとして行われているのかを知りたい!と思いました。

 

これについて、DSYプログラム担当者に聞いてみたところ、企業側の受入担当者(スーパーバイザー)へのトレーニング・プログラムは、4時間の1dayプログラムとして行っているとのこと。

具体的には、次のようなプログラムが実施されているようです。

 

① アイスブレイク(インプロ・ゲーム)

ライフヒストリー:DSY卒業生によるDSYの経験についての語りを聞く

③ グッド・プラクティス:これまでの「グッド・プラクティス」の紹介(資料も配布しておく)

④  情報共有:各企業によるインターン受入プランの説明と情報共有

⑤ スキット:インターン受入にかかわるシーンを即興的に演じ、それについてディスカッションする

 

わたし自身、教員養成にかかわる中で、教育実習などのインターンシップに学生を送り出す立場になることも多くあります。

インターンシップを、異文化の出会いの場と捉え、出会うことによる双方のパフォーマンスの発達・学習を図ろうとする、DSYのアプローチには、学ぶ点が多くありそうだと感じています。