kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

【まとめ】特有の「学びのデザイン」がみられる東京近郊の施設まとめ(1)新しいコンセプトの施設

今年の7月19日に東京大学中原淳研究室によるUSTトークライブ「フィンランドで見つけた学びのデザイン」がUstream上で放送され、さまざまな議論が行われました


トークライブのタイトルからわかるとおり、このトークライブは今年の6月に発刊された大橋香奈・大橋裕太郎『フィンランドで見つけた「学び」のデザイン―』(フィルムアート社)をめぐるトークライブで、当日の録画ビデオおよび議論のやりとりなどは、すべて、「NAKAHARA-LAB」のページから見る(たどる)ことができます。


このときに議論で話題になったことはいくつもあるのですが、それについてはtogetterによるまとめサイトや、「NAKAHARA-LAB」のページをご参考いただくとして、twitterを介した議論のなかで、ひとつの企画がもちあがりました。

それは、「学び」というものに敏感になりながら「学びのデザイン」を探す旅=「まなびんツアー」あるいは「ラーニングツアー」

現在、東京都市大学の岡部大介先生とともに、このツアーの企画
を立てるべく、東京近郊にある、特有の「学びのデザイン」をしている施設をリサーチしております。

そこで、今回は、そのリサーチの過程の中で見つかったいくつかの施設を紹介しつつ、
コメントなどでさらにオススメの施設をご紹介いただきつつ、東京近郊で見つけた「学びのデザイン」をまとめていけたらと思っております。



・・・

前置きが長くなりましたが、以下、今回のリサーチの中で見つけた/ご紹介いただいた施設をご紹介します!

まずご紹介するのは、新しいコンセプトや理念のもとに作られ、
新しいかたちの学びを支援しようとする施設です。


(1)【科学】日本科学未来館(東京都江東区 アクセス) 

「21世紀の新しい知を分かち合うために、すべての人にひらかれたサイエンスミュージアム」となることを目的とする、新たな科学コミュニケーションのありかたを模索・提示しつづける施設として考
案された、いま、日本で一番最先端のコンセプトにもとづいた科学館です。
「科学コミュニケーター(サイエンス・コミュニケーター)」を運営に不可欠なものとして取り入れているとともに、その役割の重要性を認識し、人材育成を行っているという点でも注目に値します。

サイエンス・コミュニケーションというのは、「学びのデザイン」を考えるうえで欠かせないキーワードかと思いますが、そのような意味で押さえておくべき施設だという感じがします。




(2)【歴史】江戸東京たてもの園(東京都小金井市 アクセス

江戸時代から昭和初期までの、27棟の復元建造物が建ち並ぶ野外博物館です。
海外の建物保存および教育的意図による公開がどのように行われているのか、勉強不足で、私はよく把握していないのですが(すみません)、
おそらく通常は、建物があったその場でそれを保存・維持・修復しつづける・・・というパターンが多いのではないか、と思います。
しかし、たてもの園がすごいのは、重要そうな建物を園の敷地内に移築している、という点です。

そんなわけで、たてもの園の中はタイムスリップ状態!
いろいろなところにいろいろな時代がある・・・という感じです。

日本各地にこのような園はあるとは思うのですが、そんな中のひとつの事例として見てみるのも面白いかなと思います。

しかし、「学びのデザイン」的に江戸東京たてもの園が特に面白いと思う理由は、それだけではありません。
江戸東京たてもの園が特有の「学びのデザイン」をしている、と考えられるのは、そういうかたちで移築してきた昔のたてものを単に「保存」するのではなく、現代的な文脈のなかで「再-機能」させようとしている点だと思います。

たとえば、現在やっているイベント・夏期特別企画「ちょっと涼しいたてもの園」では、移築・保存されている銭湯(子宝湯)の中で、足水ができるらしいです!

下町ゾーンでは打ち水もしていたり、アイスキャンディーも売っていたりと、ともかく、「ちょっとなつかしい場所」としても機能する博物館になろう としているところがわたしには面白いのです。

また、子どもたちの居場所づくりイベント「武蔵野えどまる団」も、地域教育の文脈でとても面白い試みだと思います。

博物館を地域のセンターにしていこうとする動きは、少しずつ増えつつありますが、

そういう「地域のセンター」としての博物館を見るとしたら(東京近郊では)ここはまさしくひとつの成功事例といえるのではないでしょうか。




(3)【複合施設】武蔵野プレイス(東京都武蔵野市 アクセス

図書館を中心とした知的創造・交流のための複合施設です。
さきほどの「江戸東京たてもの園」は、もともと単なる博物館であったところを、地域のセンターとして生まれ変わらせている事例だといえると思いますが、
こちらは、はじめから地域の知的なセンターとしての役割を果たすことが期待され、意図され、デザインされた施設といえるでしょう。

この施設については施設については、ニュースでとりあげられたときの以下の動画をインターネット上から見ることができるので、こちらをごらんください。




(4)【防災】そなエリア東京 防災体験学習施設(東京都江東区 アクセス) 

「『防災』といわない防災」というコンセプトで、さまざまな防災のための学びプログラムを開発・展開してきた、NPO法人プラスアーツさんが施設のコンサルティングを行っている防災学習施設です。

この地下1階で行われている、地震発生後72時間の生存力をつける「東京直下72Hツアー」がどうデザインされているのかが気になっていて、ずっと行ってみたいと思ってました。

防災体験プログラムというのは、数多くあるとは思うのですが、こうしてまとめて体験施設になっている例はめずらしいかと思います。




(5)【コミュニケーション】ダイアログ・イン・ザ・ダーク(東京都渋谷区 アクセス) 

「まっくらやみのエンターテイメント」と題する、完全な暗黒=視覚がまったく役に立たない状況の体験施設。

チームワークをはぐくむ、人との信頼感をあらためて感じる・・・というような効果があるそうで、
企業研修などでも使われるところも多いようです。

何しろ、暗闇の中で、いろいろな作業(キャッチボールとか、水を飲むなどのアクティビティがあるらしい。)があるため、1回あたりの時間が長く、かつ、1回で経験できる人数が限られているため、チケット代が高かったりして、なかなか二の足を踏んでしまうところもありますが、茂木健一郎(脳科学者)withダイアローグ・イン・ザ・ダーク『まっくらな中での対話』(講談社現代新書)が発売されたり、これと関連して、
「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」の理事長・志村氏と茂木氏との対談「今、この時『ビジネスに必要な脳と心とは』」が日経BPネットに掲載されたりして、かなり注目を浴びている施設(というか、イベント?)です。



(6)【児童館】ゆう杉並(東京都杉並区 アクセス) 

「ゆう杉並」は、東京都杉並区にある児童青少年センターで、中高生達が芸術や文化、スポーツなどの自主的な活動をし、交流することのできるスペースです。

この施設の「学びのデザイン」としての特徴は主に2つです。(おそらく丁寧に調べればもっとたくさんあるとは思いますが、とりあえず。)


ひとつは、この施設を利用する当事者である、中高生自身がこの施設のデザインに参加していることです。「ゆう杉並」は、中高生とともに「こんな児童館があったらいいな」を考えるワークショップを行い、そこで現れた中高生の「夢」を「かたち」にするというプロセスで生み出されてきたそうです。(樋口蓉子「『ゆう杉並をご存知ですか?』」


つまり、当事者による、当事者のための施設のデザインです。一口で「学びのデザイン」といってもその様相はさまざまですが、「ゆう杉並」はその中でも、当事者がそのデザインを行い、それに責任をもちつつ運営している、という点で特徴的であるといえます。


実際、「子どもの参画」や「子どもの居場所づくり」の視点から「ゆう杉並」の事例に注目する研究は数多くあります(Cinii検索結果)。


そういう意味では、すでにこの「学びのデザイン」としての意義が明らかにされている施設、ともいえるかもしれません。