kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

育成系英語学習ゲーム「Duolingo」

無料のオンライン英語学習アプリ「Duolingo」をご存じでしょうか。

 

アプリでも学習できるため、「英語学習アプリ」と書いておりますがWebサイトからも学習できます。むしろ、「Duoling」の特長は、アプリからでもサイトからでも、自分の好きなときに、自分の好きなスタイルで学習できることにあるでしょう。

 

「Duolingo」は英語学習アプリとしては人気の高いアプリなのですが、

その人気の理由は、無料であることだけでなく、「Duolingoプロジェクト」とも呼びたくなるような壮大なビジョンにあります。

『WIRED』では、「語学の学習をしながら、実はネットを翻訳『Duolingo』」と題して、次のような記事が掲載されています。


語学の学習をしながら、実はネットを翻訳「Duolingo」 « WIRED.jp

 

Duolingoで、ユーザーが語学のレッスンのつもりで取り組んでいる翻訳作業は、実はクリエイティブ・コモンズの文書翻訳作業であり、Duolingoはこれらの文書を文章ごとに切り分けてレッスンに散りばめ、ユーザーに翻訳させている。ユーザーは好きなだけ文章にチャレンジすることができ、完了した文章ごとに得点を得るという仕組み。 

 

つまり、英語学習をしながら、フリーカルチャーにも貢献できるという仕組み。

「Duolingo」による英語学習者が増えれば増えるほど、世界における言語のハードルが二重に低くなっていく・・・というわけです。これは面白い!

 

そのため、「Duolingo」の存在を知ってから、私は今か今かと日本語版のリリースを待っていたのでした。日本語版がリリースされるとしたら、学習言語は英語になるに違いない。そうしたら、絶対このアプリを使って英語を勉強しよう!と思っていました。

そしてついに今年の春、「Duolingo」の日本語版がリリースされわけです

 

夏休みに入って、少し時間が出来たのを良いことに、さっそくアプリをダウンロードして、アカウントを作成!・・・してみたところ、登録したメールアドレスに、次のようなメッセージが届きました。

 

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「始める前に、少しおしえておきたいことがあります」・・・?

「上手くいくんですよ」・・・???

 

あれ?なんか、やたらと日本語に不自由してないか?

そう思いつつも、「Duolingo」にトライしつづけて数週間。・・・やっぱり日本語がおかしい。「Duolingo」では、英語の文章を日本語に翻訳する課題もあるのだけれど、どうもこちらの日本語力のほうがレベル高すぎるせいで誤答と判断されるときが、けっこうな頻度であったりする。こちとら日本語(国語)の教員やでー!(怒)と怒りたくなることもしばしば。

 

そんな怒り(?)については誰しも持つようで、下記のサイトでも同じようなエピソードが紹介されていた。

無料語学学習サイト・Duolingo(デュオリンゴ)の微妙な楽しみ: 極東ブログ

 

このブログによると、どうやらウェサイトで「Duolingo」に取り組んだ場合、おかしな日本語については先方に報告できるらしい。

この書き手の方はむしろ、それを「微妙な楽しみ」となさっているらしいということもわかった。

・・・なるほど!その手があったか!

それはなかなか面白そうだ!

 

・・・というわけで、さっそくウェブサイトから「Duolingo」にログイン。

サイトで「Duolingo」に取り組んでみると、キーワードなので英語のスペリングも打ちやすく、スペルミスをすることもほとんどない(当たり前)。

そして確かに、おかしな日本語は報告できるようになっているし、他の学習者と情報交換(ディスカッション)できる仕組みになっている。

 

みんなどうやら、あたたかいまなざしで、「Duolingo」くんに接しているようだ。

「Duolingo」を続けるために必要なのは、基礎的な英語力とか、目的意識と・・・そんなものよりなにより、母性愛です!

 

もう「Good bye!」の翻訳で「さよなら」を正答とされても、「オフコースの歌じゃないんだから、『さようなら』じゃないのかYO!」とか、怒りません。

その他もろもろ、ツッコミどころは多々ありますが、ともかくあたたかいまなざしで、みんなと一緒に、日本語学習中のDuolingoくんを育てていくことに決めました。

 

だから、間違った日本語は、ちゃんと自分から教えてあげる。

他の言い方もあるんだよ、って伝えてあげる。

そうやって、私たち、一緒に生きていくんだね。

共生ってそういうことだよね。

・・・そう、心に誓いました。

 

そんな一方的な母性愛を駆使し続けてから数週間。

さきほど、Duolingoくんからはじめての返答をいただきました。

 

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ううう・・・うれしい!

素直にうれしいです!

Dulingoくんにはじめて気持ちが通じた喜びでいっぱいです!!

「私たちは亀だ」が「We are turtles.」の翻訳として認められていなかった(=誤答と判定されていた)ことを怒っていた過去のわたし!Good Bye! さよなら!*1

 

こんな自分を振り返るにつけ、ゲームとしての「Duolingo」の面白さは、育成ゲームの面白さだと思うのです。

いまいちコミュニケーションに難があるけど!

なかなか返答くれないけど!だからこそ、少し通じ合っていける喜びがある。それそのものを楽しむ育成ゲーム。

それが「Duolingo」なのではないか、と。

 

そして考えてみれば、多様な言語が混在する世界で生きる、というのは、そもそもそういうことなのではないかな、とも思ったりします。

よく「日本人がなかなか英語を話せるようにならなないのは、完璧を求めすぎるからだ」という主張を目にしますが、Duolingoくんの不完全な日本語に怒っちゃうメンタリティの根底には、「なんとか通じる」というレベルだけでは許せない気質のようなものがあるように思います。

しかし実際に、多文化・多言語の人々が入り交じる空間を考えてみれば、完璧な言語でのやりとりなんて、そうすぐに実現できるものではない気がします。

まずは、多少の間違いや不完全な部分をなんとか別の手段で補いつつ、「なんとかコミュニケーションできる」レベルでいろいろな人たちとやりとりができる、というレベルを目指すことになるのではないでしょうか。

多文化共生って、そういうことですよね。

 

そう考えると、Duolingoくんは私が日本語を教える代わりに、多文化共生について多くのことを教えてくれているようにも思います。

 

多文化共生の壮大な夢に向けて、ひたすら成長しつづける「Duolingo」は、今年7月に、TOEFLに代わる語学検定サービス Test Centerをスタートさせました。


オンライン語学学習のDuolingoがTOEFLに代わる英語検定をローンチ - TechCrunch

 

費用がかさみ、時間がかかるTOEFLにかわる英語検定サービスを始めることで、単に、世界中の人々が互いの言語で理解しあえるだけでなく、異言語の社会で学んだり働いたりすることのハードルを下げようとする試み。

 

言語にまつわるハードルは、言語そのものだけのもとのは限らない。そこには社会制度や文化など、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。英語検定はまさにその中のひとつ。

そのような中で、次なるターゲットを英語検定に定めたのは、とても興味深いことで、「Duolingo」が次に何をはじめようとするのか、これからもDuolingoくんと付き合いながら見守っていこうと思っています。

 

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*1:なお、正解は「私たちは亀たちだ」であったと記憶しています。たしかに頑張って直訳しようとすればそうかもしれないんですけどね。