kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

わたしとわたしでないものをつなぐ「メディア」――東京学芸大学附属小金井小学校・校内研究授業――

東京学芸大学附属小金井小学校で行われた校内研究授業・研究協議会に参加して参りました。

www.u-gakugei.ac.jp

今回、私が拝見させていただいた国語の研究授業は、校内研究授業の最後の回にあたります。附属小金井小学校では、これまで年7回このような校内研究授業・研究協議会を公開で実施されてきたとのことでした(PDF)

 

今回、教材としてとりあげられたのは、光村図書の小学校国語教科書・1年下巻にとりあげられている『どうぶつの赤ちゃん』(参照:教材別資料一覧 1年 | 小学校 国語 | 光村図書出版

作者は、増井光子(ますい みつこ)さん。「よこはま動物園ズーラシア」開園時から園長を努められ、昨年(2015年)4月に亡くなられた方です。上野動物園に在籍されていた頃には、パンダの繁殖に成功されています。まさに日本の動物園の歴史をつくってこられた方ですね!

 「よこはま動物園ズーラシア」をめぐる増井光子さんの思いについては、こちらの記事(くらしと保険 WEB.05 いのちを守る 増井光子さん)でも読むことができますし、増井さんが、2010年6月にBankARTstudioNYKで行われた講演「生物多様性と私たち­の暮らし」を、現在でもオンライン上で見られます。

 

 

 『どうぶつの赤ちゃん』がこのような教材であることもあり、この教材と動物園をつなげられると楽しいだろうなぁ・・・と思っていたところ、東京学芸大学附属小学校の子どもたちが遠足で多摩動物公園に行っていることがわかり、さらに、授業者の筧先生も、今回の単元に取り組まれるまでの前段階として、子どもたちが動物に関心を持てるようなさまざまな学習活動を展開されてきたことがわかり、今回の授業を拝見するのをとても楽しみにしておりました。 

 

今回、拝見した授業は、単元全体として、子どもたちが教科書教材『どうぶつの赤ちゃん』や、平行読書材として用意された他の動物の赤ちゃんに関する本(光村図書の教科書巻末にある「この本、読もう!」(PDF)では、『くらべてみよう!どうぶつのあかちゃん』シリーズが掲載されていますが、それ以外にもさまざまな動物の赤ちゃんについて調べられる平行読書材が用意され、20以上のバリエーションが用意されていました!)を読み、動物の赤ちゃんについての「はつ耳」(=「へ~!なるほど!」「びっくり!」)を紹介する「紹介カード」をつくるという内容でした。

 

授業者の先生は、「紹介カード」のイメージとして、具体的に多摩動物園にあった、解説カードを想定されていて、子どもたちが制作しようとしているメディアとしての「紹介カード」の社会的なポジションが、明確であるところが良いなぁと思いました。

 

実際、動物園のなかには、動物についての「!」とか「?」を説明してくれる、さまざまなメディアがたくさん存在しているので、子どもたちがそういうものの工夫に目を向けてくれるきっかけにもなるといいなぁ、と思ったりしました。

 

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今回、研究授業として拝見したのは、ちょうど共通教材(教科書教材)である『どうぶつの赤ちゃん』から、子どもたちそれぞれが選んだ平行読書材への学習へと移行する学習場面でした。

子どもたちはまず、共通教材(教科書教材)を読み、その中から、自分にとっての “ベスト・オブ・「はつ耳」" となる一文を選ぶ活動を行います。自分にとってもっとも「これがいちばんの『はつ耳』!」と思えるところが見つかったら、それを教室に貼られた拡大テキストのところに貼っていくという活動です。

 

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「はつ耳」シールは、耳のようなかたちをしていて、そこに子どもたちの名前が書かれています。(個人情報保護のため、名前の部分は削除しました)。

 

この子どもは、「ライオン」についての説明の中にあった、「よわよわしくて、おかあさんに あまり にて いません。」が、自分にとってもっとも「はつ耳」だったと話していました。

“ ライオンの子どもはちいさな時から強くて、おかあさんと一緒に戦っていると思っていたのに違った” のだそうです。

この発言に対して、すかさず他の子どもが、“自分はテレビで、親ライオンと一緒に子どものライオンが戦っているのを見たことがある”という発言もしていたのも、面白かったです。

 

説明的な文章は、マスメディアや本や、これまで誰かから聞いた話のなかで形成されてきたイメージを、崩してくれることがある。

私たちに、新しい世界を提示してくれることがある。

この子に限らず、「思っていたのと違った」=「はつ耳」としていた子の中には、きっとそういう説明的な文章との出会いがあったのだろうな、と思いました。

 

そして、私たちはソーシャル・メディアの発達した世界のなかで、「思っていたのと違った!」「新しい世界を提示してくれた!」と思える言葉(キーワード)や文をチェックし、自分のコメントとともに、そういう感動を与えてくれた記事を他人にシェアすることができます。

「ソーシャルリーディング」というは、そういう感動をチェックし、シェアすることで、本や文章を媒体にしながら、人と人とがつながるような、そういう読書活動のことですよね。

www.nikkei.com

 

教科書教材の「はつ耳」をチェックし、その「はつ耳」ポイントを自分なりの言葉で語りなおすこと、コメントすること・・・そしてそれを、他者にシェアすること。

おそらくここで行われている活動は、そういう「ソーシャルリーディング」の入り口になるものだったのではないか、と思いました。

 

東京学芸大学附属小学校・研究部の今年度のテーマは、「理解を深め、知を創造する子の育成――子どもの思考を媒介する「メディア」に注目して――」なのだそうです(詳細はこちら→PDF)。

今回拝見した授業を、「メディア」という視点から観察させていただくことで見えてくるものは、とてもたくさんあったけれど、個人的には、「ソーシャルリーディング」のような、いままさに生まれ広まりつつある読書活動のを子どもたちが「やってみる」ということ、あたかも「ごっこ遊び」のようなかたちで新たな読書活動の身振りを体験してみるということ・・・その可能性にもっともワクワクしました。

 

「教室にある未来」とは、電子黒板やタブレットPCのような機器そのものではないはずです。

むしろそれらICT機器が使われずに、ただあるだけだとしたら・・・、使われるとしても旧来的な学習活動が維持されたまま、そこに飼い慣らされているだけだとしたら・・・、それは「未来」とはいえないはずです。

 

それよりも、子どもたちのいまある「わたし」と、現在の「わたしでないもの」(=未来の「わたし」)を媒介し、それらを共在させながら、教室のなかで、みんなが一緒になって、学習・発達をつくり出すこと。

教育・学習における「メディア」とはそのようなものとして、捉え直される必要があるのではないでしょうか。

 

東京学芸大学附属小金井小学校では、きたる2月6日(土)午後1時30分から、「KOGANEI授業セミナー」が開催されるということです。

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「KOGANEI授業セミナー」案内裏面(スケジュール)はこちら(PDF)。申込先は、こちらだそうです(申込みフォーム)。