東北福祉大学の上條晴夫先生から、『実践・教育技術リフレクション あすの授業が上手くいく〈ふり返り〉の技術 (1) 身体スキル』(合同出版)をご恵投いただきました。
「あすの授業が上手くいく」という、教育技術のマニュアル本によくあるフレーズと、「リフレクション」「振り返り」という言葉が共存していることの奇妙さに、違和感を感じつつ、一方で、そういったディスコースの矛盾の中に、未来の可能性を見出してきた者の一人として強く興味を惹かれ、さっそく読んでみました。
すべてを読み通してみて、この書籍自体が、試行錯誤のプロセスの中にあるものだという印象を受けました。いただいた添書の中にも、本書が実験的な試みとして作られている旨が記載されていたけれども、まさに、ひとつの試行・実験として、世に出された本だという感じがします。
そんな本書の実験の中で、興味を惹かれたのが、読者自身に、自身の実践の「リフレクション」を促そうとする部分。
本書の中では、教師に求められる「身体スキル」を8つに分類し、それぞれのカテゴリーに分類された各スキル(例:「共犯関係をつくりだす」「フォローの技を磨く」など)に対して、
「思考でリフレクション!」
「身体でリフレクション!」
…という、2つのタイプの「リフレクション」が求められるようになっています。
面白いのは、後者の「身体でリフレクション!」があるというところ。
これまでも「振り返り」「リフレクション」の大切さは何度も繰り返されてきたけれども、そのときに重視されるのは、どちらかというと認知的な部分(「思考でリフレクション」)であったように思います。
それに対して、身体的な感覚や感情を用いて振り返ることを、このような教育技術マニュアル本の中に入れ込んできた(!)ところが面白いです。
私は以前、コルトハーヘン『教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ』(学文社)を読んだ際、「ALACTモデルにおける第2局面で有効な具体化のための質問」に、「あなたはどう感じたのですか?」「生徒たちはどう感じたのですか?」という、感情について振り返りが入っていることに、とても感銘を受けました。
今回の本書の試みは、そのような感情についての振り返りを、教育技術マニュアル本の中に盛り込んでいこうとする試みなのかもしれません。
一方、せっかく「身体でリフレクション!」として紹介されているにも関わらず、認知的な振り返りにとどまるような問いかけになっている(と思われる)ものもけっこうあり、それが残念なところでもありました。
それは、もちろん、身体的・感情的にリフレクションをする、ということが、マニュアル化しにくいことの証でもあるように思います。そういう意味では、身体的・感情的にリフレクションをするための問いのありかたについて、本書から考えさせられる部分は、とてもたくさんありました。
たとえば、「一緒にゲームを楽しむ(スキル5-4)」(pp.72-73)の「身体でリフレクション!」は次のようなものです。
① あなたは、子どもと一緒に学ぶことを十分に楽しんでいますか?
② あなたは、子どもと一緒に学びの「フロー体験」をしていますか?
③ あなたは、子どもと一緒に学びの達成感を得ていますか?
これらの問いは、自分が授業のなかで感じていた自分の身体のありかた、感情の動きのようなものを見つめなおすきっかけとして機能してくれるように思うのです。
授業後に、自分を振り返ってみたときに、「今日の授業は、(子どもたちは楽しんでいたけど)私は完全にサーバント(servant)だったな」とか、「今日は、みんなで一緒に学んだー!って感じがしたな」とか、考えるときがあるけれど、まさにそれを引き出してくれる問いだという感じがする。
一方、その直前にある「チューニングをする(スキル5-3)」(pp.70-71)の「身体でリフレクション!」には、次のように書かれています。
① あなたは、子どものファッションに関心を向けていますか?
② あなたは、子どもの「エンタメ」行動に関心を向けていますか?
③ あなたは、子どもの人づき合いの仕方に関心を向けていますか?
たしかに、子どもの表現に「チューニング(同調・調律)」していくために、これらのようなことを普段から意識しておくことはとても大切だとは思うのですが、これらが「身体でリフレクション!」するための問いかけになっているだろうか…と考えると、少し疑問です。
「チューニングできた!」「チューニングがうまくいかない!」という感覚は、身体的・感情的な現象なので、その部分にフォーカスしないで、それがしやすくなるための条件の部分を問いかけても、「チューニング」の経験には迫れないような気がするのです。
逆にいえば、子どもたちのファッションや「エンタメ」行動、人付き合いの仕方に関心を向け続けていたとしても、〈いま・ここ〉の場で、チューニングしようと意識し、身体を意図的にオープンな状態にしないと、チューニングはできないのではないか?と思うのです。
上條先生には、今年の8月20日に、夏休みお試し版「即興×リフレクション体験会」を横浜国立大学にて開催していただいました。
その時に、「即興×リフレクション」体験会での、リフレクションの際のポイントを実行委員の皆さんが考え、言語化されていたのですが、このようなポイントの提示のありかたが、身体的・感情的な振り返りを促していくためのひとつのヒントになるような気がしています。
そのような意味では、同じく8月に行われた国際ワークショップ「パフォーマンス心理学の未来」を踏まえてこの日に行うことになった、「演じるリフレクション」が本書の中で紹介されているにもかかわらず(p.121)、この日に共有されていたこれら3つのリフレクションのポイントが触れられていなかったのは、ちょっぴり残念でした。
① 学び手としての自分の実感を語りましょう。
② 生まれたての言葉で語りましょう。
③ 一緒に意味を作ってみましょう。
「即興×リフレクション」体験会では、さまざまな「即興」や「リフレクション」の在り方が紹介されていましたが、その多様な「リフレクション」に通底するポイントとして、これら3つのポイントが導き出されていたのだとしたら、私たちはこれをもとに、「リフレクション」のありかたを考えていくことができるのではないか?とあらためて思いました。
たまたま噂で耳にしたのですが、現在ふたたび、「即興×リフレクション」のイベントの企画が動き出しているようです。
次回の開催も楽しみにしています!