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ジョージ・オーウェル『動物農場』と『赤い闇』~映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を観てきました。


ソビエト連邦がひた隠しにした歴史の闇を照らし出す衝撃作!『赤い闇』予告編


1932-1933年にウクライナで生じた、ソ連による計画的大飢饉「ホロドモール」を取材し記事として発信しようと試みた英国人記者のひたすら孤独な闘いを描いた作品です。

ウクライナ行きの列車にのるジョーンズの様子を描いた本編映像が、Youtube上で公開されていますが、このようなかたちで、飢えた人々を描くモノクロの暗いイメージの映像が非常に印象的であることは、間違いない、とは思います。


映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』本編映像<オレンジ>

 

このように、ホロドモール自体が相当ショッキングなので、予告編でも「ホロドモールを描いた作品」とか「壮絶なる記者による闘い」ばかりがクローズアップされています。

が、ホランド監督がインタビューで「今回のように実在の人物が登場する場合、私は最初から“フィクション“として作ることを心がける。つまり、外側にある説明的な要素よりも、内なる“真実”にアプローチすることがより重要だと思うから」と述べているように、映画というイマジネーションに訴える手段によって「内なる”真実”」を描きだすことに主眼が置かれている…その意味では、淡々としているとすらいえる映画でした。

www.crank-in.net

 

予告編では一切触れられていないけれど、映画全体の語りの枠組みには、ジョージ・オーウェル『動物農場』が採用されています。


早川文庫版『動物農場』に記載されている本書のあらすじを観たら、「飲んだくれの農場主」という以外の記述が、あまりにも映画でみたものそのもので、眩暈がしました。

「飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した『動物農場』を設立した。守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領にえらばれたが、指導者である豚は手に入れた特権を徐々に拡大していき…」(ジョージ・オーウェル『動物農場 新訳版』、山形浩生訳、早川書房

 

 

鍵をかけられた「動物農場」のイメージは、徹底的な情報統制が行われた、当時のソ連の様子(映画本編では、以下のように描きだされています)と重なります。

 

しかし、上記で紹介したインタビュー記事で、ホランド監督は「腐敗したメディア、日和見的な政治家、そして無関心な社会、この3つが揃うと、また恐ろしい歴史が繰り返される」と述べていますが、これはけして、過去のことではない。

今、まさに起きていることと、重なることばかりで、だからこそ、この映画は、怖いののだと思います。