kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

施設で育つ子どもたちのライフストーリー

 先日、フレンドホーム(週末里親・季節里親)に登録したことをご報告しました。

kimilab.hateblo.jp

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、初回活動日が延期になったりしていたのですが、8月下旬、ついに、初回の活動を行うことができました。初回は、ショッピングモールでうろうろウィンドウショッピング的なことをしてきました。

まだ、顔合わせのミーティングと初回の活動しかしていないのですが、そのなかで出会ったり、知ったりする出来事ひとつひとつが新鮮で、とても興味を惹かれます。

「もっと知りたい」と思い、つい、いろいろ調べてしまっているなかで、わたしがお世話になっている施設のポリシーのひとつに、❝子どもたちひとりひとりの「ライフヒストリー」を大切にする❞という趣旨の内容が記載されていました。

自分自身が、質的な研究手法で研究をしていたこともあり、「生活」や「人生」、「個性」などではなく、わざわざ、カタカナでライフヒストリーと記載されていることが、とても印象に残りました。

なぜ、わざわざ「ライフヒストリー」と書くのか?

「ライフストーリー」ではなく、「ライフヒストリー」なのか?

…など、いろいろな疑問がわいてきます。

 

図書館にいって関連の書籍がないかどうか調べてみたところ、社会的養護のなかで、2010年代前後くらいから(?)「ライフストーリーワーク」と呼ばれる実践を紹介する書籍が出版されはじめ、日本各地で展開してきていることがわかりました。

園部博範・秋月穂高(2020)『子どもに寄り添うライフストーリーワーク:社会的養護の現場から』(北大路書房は、「ライフストーリーワーク」に関する書籍のなかでももっとも最近(2020年)出版されたものですが、この書籍の紹介文に「欧米で始まったものだが、日本の環境面との違いから、現場への導入・活用に困惑を生じている。実践ベースで成果を上げている事例を通じ、現場での様々な悩みに応えることを意図して本書は編まれた」と記載されていることから、この10年間で実践現場での「ライフストーリーワーク」の導入が進んできたことがうかがい知れます。

 

こちらの記事では、自らも児童養護施設出身者である田中れいかさんご自身が、山本智佳央ほか(2015)ライフストーリーワーク入門』(明石書店)の内容をもとに、「ライフストーリーワーク」についてとても詳しくまとめられています。

tasukeai.co

この中で、田中さんが、ライフストーリーワークに関心を持つようになった経緯について述べられている部分がとても印象に残りました。

ここからは個人的な見解になりますが、ライフストーリーワークは2年前に初めて耳にし、わたしが児童養護施設で生活していた時にやりたかったと思える取り組みとして注目してきました。

例えば、子どもたちが突発的に「親と暮らしたい!」という思いを職員さんにぶつけたとしても、虐待などプライバシーに大きく関わる極めてセンシティブな問題であるため、なかなか正面から受け止めるのは難しく、「家に帰るのは難しいよね」「家に帰れたらいいよね」といった曖昧な回答することしかできないという場合があり、このような場面においてライフストーリーワークが有効な手段ではないかと感じたためです。

施設に入っている子どもたちのバックグラウンドは、本当にさまざまで、「親と暮らしたい!」「親と会いたい!」と子どもたち自身が思っていたとしても、その子の親と再会させることが子どもにとって必ずしも良いこととは限りません。

一方で、子どもたち自身が、自分自身の人生を自分なりの言葉で意味づけ、語ることができるようになることは、その子ども自身が、自らの人生の「著者」として生きていくために、とても大切なことです。

まずは、自分自身で自分のライフストーリーの語りの主体となること。そのためには、日常的にその子どもの語りに耳を傾け、語りを促すところから少しずつ、断片的な語りを創り出していくことが必要でしょう。そして、さまざまな機会を提供しながら、その語りの断片をつなげていく契機を創出し、それらを語り手=子ども自身がつなげることによって、自分自身が「これが、自分のストーリーだ」と言えるようになることを、手助けしていくしかないのだと思います。

 

そのような意味では、細く長くつきあっていくフレンドホーム(週末里親・季節里親)のような存在は、子どもたちが少しずつ語りだしていくストーリーの「聞き手」となることによって、またある時点からは、ライフストーリーの共同の語り手となることによって、子どもを支える手助けになれるのかもしれません。

 

清水淳子「トランスレーションズ展プレイベントのグラフィック・レコーディング」(一部)