昨日1日お休みをいただけたので、国立国会図書館国際子ども図書館で1/19まで開催していた「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」展に、すべりこんできました。
今年度から、横浜国立大学附属横浜小学校でいっしょに授業のお話などをさせていただいてる先生が、「絵本を読むこと」に関心を持たれていて、「絵本にかかれている絵を見ること/読むこと」に着目した授業開発をされているので、わたしも先生とお話をしながら、絵本の中の「絵」について考えることが増えました。
今週、1/25(土)に開催される横浜国立大学附属横浜小学校での研究発表会でも、「みんなでよもう! えほんのせかいへ!」という授業名で、絵本の絵と言葉とを関連させて読むことの授業を行う予定だということで(附属横浜小学校研究発表会のご案内はこちら→PDF)、絵本のなかの絵についてもっと知っておきたいなぁ…!と思っていたところだったのでした。
「絵本に見るアートの100年」展では、「ダダ」、「シュルレアリスムの系譜」「ロシア・アヴァンギャルド」「チェコ・アヴァンギャルド」「バウハウスとニュー・バウハウス」「グラフィック・デザインの可能性」「日本のモダニズム」「第二次世界大戦後の美術の展開」という流れで、絵本にみる近現代美術史が紹介されていきます。
展示されている作品を見ていると、たしかに、近現代のアートの展開がわかる!と同時に、絵本というメディアがいかに、アートやデザインの実験場であったのかがわかり、非常に興味深かったです。
展覧会で紹介されていた絵本を、一部、ここで紹介したいと思います。
1.ダダ(ダダイズム)
紹介されていたのは、クルト・シュヴィッタース『楽園の物語( Die Märchen vom Paradies) 』と、ハンナ・ヘッヒ『絵本(Bilderbuch)』。
ハンナ・ヘッヒは、もちろん、フォト・モンタージュです!
邦訳絵本がないのが、とても残念。
2.シュルレアリスムの系譜
ここでは、「シュルレアリスム」そのものというよりも、シュルレアリスムに影響を受けて仕事を展開した児童文学作家・挿絵画家たちの仕事が紹介されていました。
児童文学作家としては、ビネッテ・シュネーダーや、アンソニー・ブラウンが取り上げられています。
日本の絵本としては、建石修志が挿絵を描いた『幸福の王子』『月(絵本グリムの森4)』が紹介されていました。
こう並べてみると、「なるほど!」という感じがしますね。
ロシア・アヴァンギャルドということで、レーベデフ&マルシャークが登場です!
マルシャークといえば『森は生きている』ですが、レーベデフ&マルシャークといえば、こちら!
…そうか!これ、ロシア・アヴァンギャルドだったのか(と、今になっているわたし)。たしかにそう言われるとそうですね。
そんなロシア・アヴァンギャルドですが、後期になると、国家のプロパガンダに使われてきて、切なくなります…。そして、当然のことながら、絵本もそれを反映し、子どもたちに「働くこと」の尊さを伝える手段になっていきます。つらい。
チェコ・アヴァンギャルド!…というわけで、イラストでファシズムに対抗したことで名高いチャペック兄弟の登場です。
でも、『こいぬとこねこのおかしな話』の絵は、単純にかわいいと思うんですよわたし。
こちらは、ヨゼフ・チャペル作、フランチシェク=フルビーン絵の『青い空』。
やっぱりかわいい。
5.バウ・ハウスとニュー・バウハウス
わたしの中で、ビネッテ・シュネーダーは、バウハウスの哲学をもった児童文学作家なのですが、シュネーダーは「シュルレアリスムの系譜」で取り上げられているので、ここでは紹介されていません。
バウ・ハウスのメンバーとして紹介されているのは、ルー・シェーパー。
シェーパーの『ヤンとヨン、彼らのパイロットフィッシュについての物語(Der Lotsenfisch: Die Geschichten von Jan und Jon und ihrem Lotsenfisch)』や『おちびさん、とても小さなこと(Knirps, sin ganz kleines Ding)』が展示されていました。
そして、ニュー・バウハウス。こちらは、ジュリエット・ケペシュ『ゆかいなかえる』です。
やはり、バウハウスは偉大である。
6.グラフィック・デザインの可能性
ここから、かなり現代に近づいてくるので、同じカテゴリーの中にいくつかの流れをもった絵本が紹介されてくるようになるので、とてもその全ては紹介しきれないのですが、このコーナーでもっとも大切なのは、「ヴィジュアル・コミュニケーション」という考え方の成立でしょう!
その視点からいって、もっとも紹介すべきは、ブルーノ・ムナーリですね!
ブルーノ・ムナーリの絵本といえば、今回紹介されていなかったけれど、このあたりの「かたち」に着目したシリーズも、このテーマで紹介するとしたら、このあたりの絵本も重要なのでは?と思ったのですが、紹介されない理由があったんでしょうか…。
個人的には、子どもの「つくる」ことを促していくような、このあたりのシリーズが好きなんですけどね…。
「グラフィック・デザインの可能性」といえば、もうおひとり、外してはならないのは、レオ=レオニですね!
ブルーノ・ムナーリが「かたち」だとしたら、レオ=レオニは「色」の喜びや驚きを、子どもたちと共有することに命をかけている気がします。
まさに、ビジュアル・コミュニケーションの可能性を追求してるんですね。
7.日本のモダニズム
こちらでは、日本の絵本におけるモダニズムの受容について紹介するコーナーです。
ここで紹介されている画家が制作した挿絵のなかで、もっとも広く知られているものは、佐藤忠良の描いた『おおきなかぶ』の挿絵なのではないか、と思います。
その他にも、脇田和が紹介されていたり…
村山知義が紹介されていました。
村山知義は、かなり「日本のモダニズム」!という感じがしますが、それも含めて、今、わたしたちがなんとなく「絵本の絵」として想像するものは、このあたりに形成されてきたのではないか、という気がします。
8. 第二次世界大戦後の美術の展開
ここは、もう現代アートの流れを紹介するコーナーですか!?というくらい、ひたすら多様な感じでした。現代アートがいろいろなのだから、仕方ない。
むしろ、ここだけにフォーカスして、一度、特集展示をやってほしいくらいです。
そんなわけで、覚えているものの一部のみをご紹介します。
アンディ・ウォーホルと、ディヴィット・ホックニー。そりゃそうなんだけどさ…という感じがしてしまうのは、わたしだけなんでしょうか。
ニュー・ペインティング
キース・へリングとバスキア、そして大竹伸朗!横尾忠則!ということで大竹伸朗『ジャリおじさん』と、横尾忠則が挿絵を描いた『エジプト十字架の秘密』『宇宙人デカ』が紹介されていました。
高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之の3名により1963年に結成された前衛芸術グループ「ハイレッドセンター」。まさか、この文脈で出てくるとは思いませんでしたが、「ハイレッドセンター」コーナーもありました。
この他、もちろん、元永定正さんも紹介されていました…!名作ばかりですからね!
特別展示コーナーには、数々の絵本作家・挿絵画家たちによって描かれた『不思議の国のアリス』『赤ずきん』『ピノキオ』の展示もあったり…、絵本・児童文学とアート・デザインとの関わりの深さを思う展示でした。