kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

パフォーマンス学習の場としての模擬授業をやってみた。

 

今日は、わたしが学部で担当している「初等教科教育法(国語)」の最終回でした。

「初等教科教育法(国語)」は、学部2年生対象の必修授業です。約240名を春学期2クラス、秋学期2クラスの計4つのクラスに分けて実施するのですが、現在はそれをすべてわたしひとりが担当しています。

このような状況なので、クラス規模が60名程度となり、そのままのクラス規模で模擬授業をやってしまうと、なかなか、自分自身の教師としての働きかけがどのように受け止められているのかを見たり、学習者の学習の様子を見とったりすることが難しいので、この授業を担当した当初から、30名×2クラス同時並行のかたちで、模擬授業を実施しています。そして、昨年度までは、ティーチング・アシスタント(TA)として手伝ってくれる大学院生がいたので、模擬授業を行う2~3回分の授業だけはTAの方に片方のクラスを見ていただいていました。

…が!!

今年度はついに、頼りにしていた院生たちがことごとく社会に出ていってしまい、TAなどのかたちでどなたかに手伝ってもらい、片方の教室を見てもらうことができなくなってしまいました。

そんなわけで、3月後半あたりから、「どうしよう~」とかなり頭を抱えていたのですが、そんな矢先に、紀伊国屋新宿本店で行われた「リフレクション(省察)で教師は育つ!」に参加し、(直接的にそんな話はなかったのですが)、渡辺貴裕先生の『授業づくりの考え方』(くろしお出版)で紹介されている「対話型模擬授業検討会」を、ロールプレイを通じて学生たちに経験してもらいながら、自分たちで模擬授業を進めていけるようにできないだろうか、という発想に至りました。

 

kimilab.hateblo.jp

 

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これは、わたしにとってはかなり大きな決断でした。

それまで、わたしのゼミに所属していたゼミ生から、「〇〇先生、模擬授業のときに授業に来なくかったんですよ~!」みたいな不満の声を聴くこともありましたし、学生たちの不満につながる危険性も十分にあると思いました。

でも、自分たち自身で、模擬授業をして、お互いの授業を見て、そこから学びあえるようになることは、省察的実践家としての教師を育てていくうえでは、大切なこと。

そうであるとすれば、学部2年生の段階で、どこまでできるかはわからないけれど、ともかく、自分の考えられる最大限の配慮をしながら、できるところまでやってみよう!と思い、今学期の授業では、“模擬授業をお互いにやってみて、話し合い、そこから学ぶ”という活動を、繰り返して体験できるようにしてみました。

はじめは、『授業づくりの考え方』で掲載されている事例のロールプレイを経験して、次には、2チームごとのペアになってお互いに模擬授業のための学習活動のアイデアをやってみる段階、それを2~3回繰り返して、最後のステージに、30名の学生たちを対象にした模擬授業をやってみる…という流れです。

 

1.対話型模擬授業検討会のロールプレイ

 対話型模擬授業検討会の記録映像Youtube上で公開されており、日本教師教育学会「学会企画関連企画報告書」のページにそのリンクと、その文字化資料が掲載されている報告書『「対話型模擬授業検討会の実現とそれをめぐって』(PDF)が公開されているので、この映像視聴をするという手もあったのかもしれません。


180929模擬授業@教師教育学会

60人もの学生たちの前でパフォーマンスをするというのは、けっこうリスクが高いので、映像視聴にすべきかどうか最後まで悩んだのですが、結局、『授業づくりの考え方』で掲載されている事例について、まずはじめに、各チームから選ばれた人たちが、全員の前でロールプレイをするという活動を2シーン(「やってみる」「かえりみる」)やってみることにしました。

わたしが担当しているのが、「国語」の教科教育法の授業であるというのも理由のひとつですが、ちょうどそれまで学生たちが学んできた学習の中で、リアクションペーパー(大福帳)に、「学ぶ目的と活動がずれないようにすることが大事だ」とコメントしてくる学生たちが多くなってきたので、自分たちでもロールプレイを見ながら、「ここはこうした方がいいんじゃないか」と気づいていけるといいかな、と思ったことが大きいです。

当日は、ロールプレイング・ゲーム的な感覚で参加してもらおうと思い、『授業づくりの考え方』の中の「登場人物の紹介」をカード化して、「キャラクター・カード」を作り、チームごとに、どれか1名の「キャラクター」にふさわしい(?)人を選出してもらうことにしました。

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対話型模擬授業検討会キャラクターカード

 この日の授業は、オープンキャンパス直前ということで、できれば通常、使用している教室をオープンキャンパスの準備のために使用したいというオファーがあったので、中央図書館のメディアホールというところで実施したのですが、そのせいで、なんか本当に舞台っぽい感じになりました!

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チームごとに選ばれた「キャラクター」の皆さんによる、2シーン分のロールプレイのあとは、グループごとに「キャラクター」を割りふっての読み合わせ。

この日の授業については、賛否両論で、“対話で書かれている文章なので、役割分担して読むことで内容がよくわかった”とか、“模擬授業からディスカッションして振り返ることのイメージがわいた”という学生もいれば、“みんな文章を読み上げることにいっぱいいっぱいで、なんでこんな活動をするのかがわからなかった”という人もいました。

そもそも、戯曲・脚本のような形式のものをみんなで読みながら、そこから何かを感じたり考えたりする…という学習のスタイルへの親和性がない人たちにとっては、このようなスタイルで学んでいくことにハードルがあるのだろうと思います。

 個人的には、「絵を描く」ことによって学んだり、「文章を書く」ことによって学んだりするように、実際に声に出して読んでみる、身体を動かしてみることによって学ぶ、というのもひとつの学習スタイルとして、みんなが使えるようになるといいなぁ、と思うのですが。

 

2.ペアごとに「やってみる」

ロールプレイを行った授業の次の週には、自分たちがこれまで考えてきた模擬授業のための学習プランを、実際にペアでやってみる活動を行いました。学生たちには「模擬授業のための模擬授業」と呼ばれてました。

…たしかに、そうですね。

 

この「ペアでやってみる」活動は、はじめるまでがなかなか大変そうでしたが、実際にやってみると、かなり実り多い活動になったようで、学生たちの多くも、肯定的にこの活動を受け止めてくれていていたようでした。(そもそも、それまでに学習プランに対するアイディアを十分出しきれておらずに戸惑ったケースは多々あったようですが)

 

フォントの魅力を伝えよう!と頑張っていた「文字は文化だ!」チームは、ペアでやってみる活動を何回かやる中で、“フォントってマニアックな趣味だと思ってたけど、みんなに楽しんでもらえそう…!”という感覚をつかんでいったように思います。

2回目のペア活動のときには、“みんなが、ステキなフォントを書いてくれました!いっしょに入れておくのでぜひ見てください!”といったコメントとともに、そのときのペア活動で相手チームの人たちが作ってくれた「作品」を見せてくれました。

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「フォント」作品

ペアでの模擬授業の中で、「こんな活動で大丈夫かな…」という漠然とした不安を、自信へとつなげていったチームがある一方で、いろいろなチームとペアになりながら、「もっと活動をスムーズにするには?」「もっと充実した学習にするには?」と考えながら、自分たちの模擬授業をブラッシュアップしていったチームもありました。

 

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赤字修正が入ったワークシート案



このチームは、ワークシートに書かれた「お題」を、実際にやってみる中で見直していく…という活動の中で、数種類のワークシートを開発。さらにそれを何回にもわたって修正していき、改訂版を重ねていくなかで今日の本番を迎えていました。

 

そんな中でも、特に興味深かったのは、模擬授業用に用意した教室以外のスペースを利用することを提案したチームがあったことです。

 

事前調査の結果から、「大学生が予想以上に、新書を読んでいない!」という問題意識をもった「教育学部恋愛学科」チーム。

たまたま、2回目のペア活動のときに使った、8名定員のゼミ室がお気に召したようで、本番の模擬授業でも、このようなかたちで2つのゼミ室に新書コーナーを設置し、導入のレクチャーのあと、2つあるゼミ室に自由に移動をして新書を選びつつ読んでもらう活動を行っていました。

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並べられた新書

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新書を読む

実際に、机の周りに集まって考えているだけだとしたら、おそらく、「使う教室を変えよう!」とか「あの教室に、このように本を設置したらどうだろう?」というアイデアは出にくかったのではないか、と推測します。(とてもクリエイティブな学生たちだったので、もしかしたらはじめからあった発想なのかもしれませんが)

実際に「やってみる」ことで、環境の側の限界も見えてくる、だからこそ、環境そのものを変えられないか?という発想が出てくる……そんなこともありえるのではないか、と思いました。

 

3.約30人の学生たちに対する模擬授業

 

このようなペア活動を重ねたうえでの模擬授業本番。

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ワーク「若者言葉の現代語訳」

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「エモい」シーンを言葉で説明する

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心配になる「歯がいたい」

ほとんどの学生が、「はじめて授業をつくってみました!」という状況。

しかも「初等教科教育法(国語)」では、自分たちが得意な・好きな言語活動にもとづいて、自分たちが学習をギヴ(give)できる授業を考える…という「やったことのない」課題に取り組んでいるので、できあがってくる授業も、取り組みのレベルも、実にさまざま。

それでも、他のだれかがやっている模擬授業に関心をもち、それに学習者の立場から参加することは、なんだか自分の学びに役立ちそうだぞ!…という感覚そのものは、受講者の関わりのレベルにかかわらず、もってもらえたような気がします。

もちろん、「模擬授業(本番)のときにも、ペアでやっていたときと同じように、授業の後にいろいろコメントをしあえたらいいのに…」「もっと、自分たちで率直に、学習者として感じたことを交流しあうにはどうしたらいいだろう?」とか、わたしの中で、課題になったことは、たくさんありました。

それが、学部2年生の授業での限られた時間のなかで、どこまで実現可能なのかも、まだまだわかりません。

 

とはいえ、はじめての状況のなか、そのはじめての取り組みを一緒に創ってくれた2年生たちには、心から感謝しています。

次はまた、2カ月後に、同じ科目名での授業が始まります。今回の取り組みをどのように生かしていくか、また2カ月かけて、考えていきたいと思います。