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Literacy, Culture and contemporary learning

「好奇心(curiosity)」と「質問をすること(Asking questions)」~Raquell Holms「STEAM教育へのパフォーマンス・アプローチ」

筑波大学東京キャンパスで行われた、「インプロサイエンス(Improvscience)」のRaquell Holms先生によるセッションに参加してきました。(以下、Dr. Raquell Holms「STEAM教育へのパフォーマンス・アプローチ」案内より)

 

「STEAM教育へのパフォーマンス・アプローチ」

インプロ・サイエンス(improvscience)の代表・創設者で、イーストサイド研究所(East Side Institute)のアソシエートでもある、ラクエル・ホルムズ(Raquell Holms)さんが東大Global Faculty Development Initiativeでの講義のために来日されます。来日中にパフォーマンス心理学、パフォーマンス・アクティビズムの研究者、実践家と話しがしたいということで、以下のようなセッションが実現しました。ぜひご参加下さい。

 

ラクエル・ホルムズ(Ph.D)は、インプロやパフォーマンスをもちいて、科学研究コミュニティーの成長にアプローチする方法開拓のパイオニアです。もともとはタフツ医大やハーバード医科大で細胞生物学者として訓練を受けましたが、現在は計算科学ならびに高度計算技術領域で仕事をしています。ImprovScienceの創設者として、イーストサイド研究所での人間の発達と成長に関するトレーニングを協同的学習と研究の環境制作に利用しています。ワークショップや、プログラム開発、講演を通じて、米国各地の科学者が学問領域や文化の壁を超えて、研究者能力の成長と拡張を手助けしています。彼女派、現在Adjunct Research Associate Professor at the Simon A. Levin Mathematical Computational Modeling Sciences Center at Arizona State Universityです。又2019年6月のニューヨーク市大Stony Brookでおこなれた、Applied Improvisation Network Conferenceのキーノートスピーカーでした。

 

「インプロ(即興)」「パフォーマンス」×「サイエンス」というと、どうしても米国科学振興協会(AAAS)の「博士号を踊ろう(Dance Your PhD)」を 思い出してしまうわたしです。

www.sciencemag.org

 

…が、今回の話ではもっと「科学の本質(nature of science)」に迫ったインプロの導入についての話を聞くことができたことが、とても面白かったです。

 

そこで、キーワードになっていたのは、「好奇心(curiosity)」「質問をすること(Asking Questions)」。

 

たとえば、「質問をすること(Asking Questions)」に関しては、次のようなアクティビティが紹介されました。

 

◎質問をする(Ask Questions)

[1]できるかぎりたくさんの質問を見つける

自分たちがいる部屋の中を見渡して、できる限りたくさんの「質問(Question)」を見つける。

(例:「あのライトはどうして光っているんだろう?」「このプロジェクターはどのように吊り下げられているんだろう?」など)


[2] 他の人が見つけたQuestionに付け足していく
・他の誰かが言った質問に付け足すかたちで、質問をしていく。

 

 このアクティビティによって、他のメンバーに対して注意を払いつづけていくことができる、とHolmz先生は言います。間違えることに対する恐怖を取り除いたり、自分では思いつかなかった質問を思いつくきっかけを得たりすることができるのだ、とも。

もちろん、このアクティビティは「好奇心(curiosity)」ともつながっています。特に[1]のアクティビティでは、それまでほとんど関心を払うことのなかった部屋の隅々にまで目を配り、そこに自分から積極的に好奇心を働かせようとしなければ、「質問」は見えてきません。また[2]では、他のだれかの質問に加えていくかたちで質問を考えなければならないので、自分がまったく注意を払っていなかった対象に対して、積極的に関心を持つことが求められます。

 

これまでほとんど関心にのぼらなったことに対して「好奇心」を持つこと、そして、それに対して「質問をすること」。

シンプルだけれども、これこそが「科学(science)」そのものだ、というHolms先生のアプローチは、とても印象的でした。

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科学未来館常設展「アナグラの歌」。好奇心をもっていろいろやってみることが、すてきな歌につながっていきます。

奇遇なことに、昨年度から今年度にかけて、複数回にわたり、国語科における「質問をすること」にかかわる授業の研究にかかわってきたこともあり、自分自身が学校における授業研究で取り組んできたことと、科学の本質とが、しっかりと結びついていたことを実感できたことも、非常にうれしいことでした。

 

パフォーマンス心理学の研究会に参加するようになってから、「インプロ」にしても「パフォーマンス」にしても、「こんなにいろいろ学んできているのに、自分では何も実践できていないなぁ…」と落ち込むことばかりだったのですが、あらためて、Improvisationの考え方と自分自身の仕事との重ね合わせ方について、じっくり考えていくための視点をもらうことができた研究会でした。