サラエボ包囲下の市民たちの知恵とヒューマニティ、そして、エンターテイメント:映画『キス・ザ・フューチャー』
さすがにもう観られないかとあきらめていたら、横浜にあるシネマジャック&ベティで、『キス・ザ・フューチャー(KISS THE FUTURE)』の上映が始まるとわかり、映画館まで行ってきました。
観にいけて、良かった。
サラエボ包囲の4年間の間に起きた出来事と、その間に交わされた約束を果たすかたちで紛争終結後に開催された、U2のサラエボでのライブを描きだした、ドキュメンタリー作品。
そもそもサラエボ包囲そのものが現実感のない出来事です。
映画の冒頭では、当時のサラエボを生き抜いた市民たちの語りによって、いかにサラエボ包囲が始まったが語られるのですが、市民にとってもあまりにも突然に世界が逆転するような出来事だったことがわかります。
そして、そんな、サラエボの市民たちが、当時を思いだしながら、「あと5分後に死ぬとしたら何をする!?それが俺たちがロックをやった理由だよ」(石田意訳)などと語っているのを見ると、ますます、これはどこかの誰かが創りあげたフィクションなのではないかと思えてきます。
…が、この映画では、数々のアーカイヴ映像と、当日を知る人びとのインタビューが、その真実性を突き付けてきます。
そう。これは、まぎれもなく、現実に起きた出来事なのです。
映画のなかでは、銃撃のリスクに晒されながら、道を走り抜け、地下シェルターに集って皆でディスコをしたり、ミュージカル「ヘアー」を上演したり、「ミス包囲都市コンテスト」という名のミスコンを開催したり、いろいろとわけがわからい出来事が続いていきます。
「ミス包囲都市コンテスト」は、とても印象的でした。
美を競うコンテストに出場した女性たちが一列に並んで「彼らに殺させないで(Don't let them kill up)」と書かれた横断幕をもっている様は、なんだか不思議な迫力があり、サラエボを生き抜こうとした人たちの「これこそが我々の抵抗なのだ!」という強い宣言のようにも見えてきます。
そのような、市民たちのパワフルで無茶苦茶な抵抗(としてのエンターテイメント)に、これまた無茶苦茶な人たちが外からやってきて、「U2をサラエボに呼ぼうぜ!」と言い出すあたりが、面白い。
伝説のサラエボライブと、それをめぐる動きも、もちろん奇跡的で感動するけれど、それまでのサラエボ市民たちの驚くべきパワーと、(こんなに非人道的な状況のなかで)人間らしく、人間として生き続けるための知恵を見届けてほしいと思います。
映画の最後のシーンのメッセージにも通じることですが、世界が簡単に分断してしまう今だからこそ、観るべき映画だといえるのではないでしょうか。
