kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

ビブリオバトル〜本好きな人たちの楽しみ方を共有する場のデザイン〜

ビブリオバトル初参戦inこすみ図書

先日、墨田区東向島にある「こすみ図書」というスペースで行われた、
折り紙集団ポロロッカ+こすみ図書「折紙展+ビブリオバトル」に参加してきました。

こすみ図書は、鳩の街通り商店街という独特の情緒をもった商店街の片隅にある、小さな図書館。
鳩の街通り商店街やその周辺のエリアは、吉行淳之助『原色の街』の舞台にもなったエリアで、
立て替えが進みつつある今も、その面影を少し残しつつ、
現在は、アーティストやデザイナー、若い起業家などが住みつつ、そこで何かをはじめつつ、
面白いエリアになっているエリアです。


写真 「墨東まち見世2010」に鳩の街通り商店街にある鈴木荘で展示された作品・池田光宏《by the Window“墨東バージョン》 


 こすみ図書の代表(?)のこんのさんも、鳩の街通りを含む、墨田区東向島・京島のあたりで行われている「墨東まち見世」をきっかけにこの地域に住みはじめ、こすみ図書をオープン。
 ちなみに、わたしは前職で「墨東まち見世」に関わっていたため、そのご縁もあって、今回のイベントに誘っていただいたのでした。

 当日のこすみ図書の様子。(ビブリオバトルの後に、みんなで自転車部のかき氷自転車を体験しているところです。)


 さてさて、そんなスペースで、ビブリオバトルがはじまりました

 ビブリオバトルとは、「みんなで集まって5分で本を紹介。そして,読みたくなった本(=チャンプ本)を投票して決定する、スポーツのような書評会」のこと(『知的書評合戦ビブリオバトル』HP)で、以下のようなルールで進められます。

【公式ルール】

○ 発表参加者が自分で読んで面白いと思った本を持って集まる.
○ 順番に一人5分間で本を紹介する.
○ 紹介された本について,それぞれの発表の後に2〜3分の参加者全員でディスカッションを行う.
○ 発表参加者に紹介された本の中で「どの本を一番読みたくなったか?」を基準に参加者全員で投票を行い最多票を集めたものを「チャンプ本」として決定する.

「公式ルール」『知的書評合戦ビブリオバトル』HPより

 この日の参加者は、
 わたしと、
 大学院で社会学を専攻しながら、このエリアでのアートをめぐる変化などを研究しているきむさん。
 このエリアのことを多方面から考えるNPO法人向島学会のメンバーでもある社会人のSさん。
 そして、こすみ図書の代表(?)をしているこんのさんと、
 折り紙集団ポロロッカのひげさん、
 ビブリオバトルが好きで奈良県などで行われている大会にも出ている奈良絵里子さん・・・の6名。
 このうちビブリオバトルを経験したことのあるメンバーは、こんのさん、ひげさん、奈良さんの3名でした。

 ビブリオバトルのルールに則り(?)、「未経験者が優先的に発表順序を決められる」ということで、
経験者3名と未経験者3名がそれぞれジャンケンをして希望順序を決定。


 ・・・そしてついに、ビブリオバトルがはじまりました。


 トップバッターは、きむさん。
 きむさんが紹介してくれたのは、ご自身の書いた修士論文でした。
タイトルは、『変貌する下町と地域振興策としてのアート―東京墨田区向島地区の事例から―』


 きむさんは、この修士論文をインタビューなどで協力してくれた地域の人たちに読んでほしいと思い、
修士論文が完成すると、それをたくさん印刷・製本して、インタビューなど調査に協力してくださった方がたに配布したそうです。
 だけれどもやはり、コメントをくれるのは、大学院や学会など、研究関係の人たちが多く、なかなか地域の人たちはコメントをくれない・・・読んでくれていないのかもしれない。
なので、できるだけいろいろな機会に話して伝えていくことが大切だ、ということで今回、ビブリオバトル修士論文を紹介することにしたそうでした。

 修士論文の中に、インタビューなど調査に協力してくれた方に読んでもらえるよう、ルポルタージュ風に書いた章などがあり・・・という説明には、わたしも「なるほどなぁ」と思うところがありました。
 わたしも修士論文を書いていたときに(というか今でも)、調査者と調査協力者の非対称性ということをずっとずっと悩んでいて、結局、調査協力者を記述するように、わたし自身も調査者の視点から記述することで、なんらかのフェアネスがはかれないか・・・ということを試みたことがありました。


 きむさんの、「研究を狭いアカデミックの世界だけに閉じ込めず、他の世界にも広げていこう/伝えていこう」についての姿勢について、奈良さんからの質問やコメントもあり、「読書」とか「読むこと」とはまた違う方向でディスカッションが行われました。



 2番目に発表したのはこんのさん。
 こんのさんは、社会人になるときにお兄さんから「社会人になったら、お金のこととかちゃんと知っておかなきゃダメだよ」と言われすすめられたという(!)ナニワ金融道を紹介しました。

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

 「お金の裏の世界のこととかどうなっているのかわかってためになるし、
 マンガもすごく面白いので、好きなんです。」・・・と独特の語り口で語るこんのさん。
本人のキャラクターと紹介しているマンガにギャップがありすぎて、発表中にもなんども笑いが起こりました。
 
 3番目に発表したのは、わたくし。
 ご紹介したのは、最近読んだ本の中でもっとも、現代社会(特に若者論)に関して、独特な切り口からクリアカットな説明をしているのではないかと思うオススメ本『趣味縁からはじまる社会参加(シリーズ若者の現在)』です。

趣味縁からはじまる社会参加 (若者の気分)

趣味縁からはじまる社会参加 (若者の気分)

 「オタク」には、「引きこもっている」「他人と交流を持たない」というイメージがある。
 また、それに象徴されるように近年の若者も、「社会から逃避している」「ますます一人の世界へと閉じこもるようになっている」と批判されています。
 でも本当にそうなのか?
 この本では、自分の世界への閉じこもりの象徴ともいえる「趣味」が、その先に、公共への参加へとつながる可能性があるのではないか、ということを論じます。
 そういう意味で、今、公共への参加ということに関わろうとする人にも、趣味からはじまる「つながり」のようなものに興味がある人にも読んでほしい、という説明をしました。


 4番目の発表者はSさん。
 Sさんは元巨人軍・長島の背番号が「4」だからという理由で4番目を選んだそうです。
 そんな野球好き(?)の彼が紹介したのは、『全1192試合 V9巨人のデータ分析 (光文社新書)』
 

全1192試合 V9巨人のデータ分析 (光文社新書)

全1192試合 V9巨人のデータ分析 (光文社新書)

 おもむろに、オレンジ色のポメラを持ち出し、そこに打ち込んだ原稿をもとに発表をするSさん。
 さすがに社会人は違います!(ほぼみんな社会人だったけど・・・)
 わたしは、実をいうと、野球がどうやったら得点したことになるのかすらわからない、野球音痴なので、なかなかハードルが高かったのですが、それでもSさんの事前準備と熱い説明のおかげで、説明をなんとかかんとか理解することができました。
 長島さんと王さんの違いなど、ふだん何気なく聞くけれどあまり気もとめていなかったことなど、少し興味を持ってみようかな、という気になりました。
 
 このとき、ビブリオバトルの「学びのデザイン」として重要なことを挙げるのであれば、それはなによりもまず、その本を大好きな人が、熱をもって語る、その語り口を聞ける場であることなのだろうな、と思いました。
 TVの特集でも、おすすめブックマークでも野球の情報が流れてきても、なんとなくそれはいつでも「わたしとは関係ないもの」としてカテゴライズされていました。でも、熱い語り口で目の前にいる人が語っていると、それは「わたしとは関係ないもの」ではなくなってしまう。自分との関係を探るべく、質問をすることもできる。
 ・・・そういう経験の質が、これまでの読書の場のデザインとは決定的に違うところのような気がしました。

 
 
 第5番目の発表者は主宰者のひげさん。
 ひげさんは、「ビブリオバトル」のためにチェックして情報をストックしておくブックリストのようなものを持っているらしく(!)、そのリストからのオススメ本を紹介してくれました。
  

子どもが体験するべき50の危険なこと (Make: Japan Books)

子どもが体験するべき50の危険なこと (Make: Japan Books)


 『子どもが体験すべき50の危険なこと』のタイトルとおり、「電池をなめる」「ゴミ箱の中に入る」「ナイフを使う」「目かくしで1時間すごす」「強風の中で手作り凧をあげる」「やりを投げる」など、なかなかデンジャラスなアドベンチャーというかチャレンジというか、そういうものが掲載されています。
 面白いのは、うーん・・・それって法律違反?というようなものまで含まれていること。例えば、「車を運転する」・・・・・・えーと・・・これって大丈夫なの?。
 また、原作(米国で発売された初版)には掲載されていた「電車のレールの上に石を置く」は、日本では法律違反なのでカットされたとか、そんなかなり「危うい」活動セレクション。
 確かに見ているだけでも面白そう!やってみたい!(?)と思える本でした。


 最後のプレゼンターは奈良さん。
 奈良さんは以前から、短歌が好きだということで、今回も短歌に関係する本を紹介してくれました。

ショートソング (集英社文庫)

ショートソング (集英社文庫)

 
 「ショート・ソング」というタイトルの説明――「ショート」=「短い」、「ソング」=「歌」、つまり「短歌」のこと――からはじまって、この本の作者についての説明や作者がこの本にこめた思いなどが説明されていて、あまりにいろいろな文庫が日々発売されている昨今の中で、埋もれてしまった、密やかで、でもチャレンジングな作者の試みを、目の前であらためて紹介してもらったような気になりました。

 説明の仕方も、ご自身が好きな「短歌」からの視点のもので、「集英社文庫」の一冊としてしか見てなかった(見ていてもスルーされてしまった?)これまでと、決定的にその本に対する見方が変わったように思います。


 このような感じで、様々な種類の本(論文含む)、様々な語り口による説明があったバトルだったため、「チャンプ本」を決める審査は苦戦。
 オーディエンスも含めて、「自分が読みたいと思った本」を全員指さしたところ、『ナニワ金融道』と『趣味縁からはじまる社会参加』『ショート・ソング』が3票ずつで同票1位。そこで、この3冊で決勝戦を行い、『趣味縁からはじまる社会参加』が僅差で「チャンプ本」となりました。


 自分の紹介した本が「チャンプ本」になったということで、うれしいことこの上なしでした。
 ビブリオバトルは、想像していた以上に、プレゼンテーションの技術や経験以外のところで結果が左右されるところが多かったように思います。もちろん、本に対する思いの強さとか熱さだけでもないですし。そういう不安定さが、参加者全員を「書評ゲームそのものを楽しむ」という姿勢に促しているように思います。


 まだ1回しか参加していないので、「ビブリオバトル」がどういう学びの場なのか、をいうことはとても難しいのですが、現時点では、本が好きな人が自分の好きな本に見いだしている身体的・感情的な「楽しさ」を、その場の参加者全体に「感染」させていくことを可能にしている場といえるのではないかと思いました。
 これについては、またこれからも考えていきたいと思います。


 最後に、
 こすみ図書では、9月3日(土)にも、再び、ビブリオバトルを開催するとのこと。
 ぜひ興味を持たれたかたは行ってみてはどうでしょうか。