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Literacy, Culture and contemporary learning

ボードゲームの体験を言葉にし、思想にする~『ボードゲームで社会が変わる』

那覇潤・小野卓也 (2023)『ボードゲームで社会が変わる:遊戯(ゆげ)するケアへを読みました。

「「ボードゲームを思想にする」ために」(p.3)作られたという本書。

その言葉どおり、ボードゲームを思想にする」ための数々の試みが、書籍全体にちりばめられており、その切り口そのものが興味深いです。

こちらのレビューでは、「目的」に縛られることによって奪われものについての議論に焦点が当てられているようですが、わたしは論じられている思想以上に、本書が、ボードゲームをプレイするという経験に根付きながら、その経験を言語化し続けることによって思想にたどりつこうとしていることに、感銘を受けました。

 

たとえば、いいだ・なむ(2022)『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』のアナログゲーム版みたいな感覚で読めてしまう、第2章。
文芸オタクのわたしが教える バズる文章教室』などのエッセイで有名な三宅香帆 さん(日本古典系の書評家、ライター)さんの記すDixit(ディクシット)論(正確にいえば、『Dixit』から見る現代若者論)も面白いし、『「その日暮らし」の人類学』、小川さやかさん(文化人類学者)の『 ハイソサエティ論も面白いです。『ハイソサエティ』なんて、めちゃくちゃシンプルな賭けゲームなのに、よくあれだけ書けるなぁ…と普通に感心してしまいました。

そして何といっても面白いのが、歴史学者・辻田真佐憲さんの主計将校レビュー(というかプレイレポート)。

ボードゲームによる歴史の書き換え(日本・ドイツ・イタリアが、連合国軍に勝っちゃいました!)を、歴史家的文体(?)で語っているのを見るとワクワクします。


様々な分野の研究者・専門家がそれぞれのアカデミックな知見と文体で記述される「ボードゲームをプレイする」経験を読むのは、とてもエキサイティングです。

そしてこれらを読むことで、「ボードゲームを思想にする」ために我々はいかなる言葉で、何を語ることができるのか、という問いを突き付けられます。

また、與那覇潤氏と小野卓也氏の二人が、それぞれに異なる言葉を重ねながら、ボードゲームをプレイすることの「本質」を語ろうとする対談(第1章・第3章)では、まさに「対談」だからこそ可能になる、対話を軸とした言語化と思想の探求が行われています。

那覇氏が、自身のゲームプレイ経験に基づく経験を分類・整理しながら言語化すると、それが即座に、インド哲学者であり住職でもある小野氏によって、宗教的な実践と結びつけられその実践の意味が重層化されていく様は、まさに思想が作られていく瞬間を見ていくようで、それ自体がとても興味深いです。

 

そのようななか、個人的にもっとも印象に残ったのは、與那覇潤「ボードゲームはなにをわたしに考えさせたか――リワークデイケアでの体験から」(第4章)での、「人狼」についての考察でした。

那覇氏はリワークデイケアで何度も「人狼」のファシリテートをしてきた体験をもとに、本来、「遊び」であったはずの「人狼」が「必勝法」の持ち込みによって「作業」になってしまうことを指摘しながら、それを避けるために私たちができることのひとつに、「長くつづけること」を挙げています。

つまり、同じメンバーで対面で集まりながら長く続けていくことによって、お互いのことがわかってくること、お互いのことを気にかけあうことで、みんなでみんなが楽しめるようなゲームプレイのありかたができあがってくる――與那覇氏は、ここに、「社会思想としてのボードゲーム」の可能性を見出します。


このことは、同じメンバーで何度も何度も同じゲームをプレイする機会そのものが珍しい中、どうしても見過ごされがちであると思います。

嫌な思いをするプレイヤーがゼロになるように、ゲームシステムのルールを複雑にすることでみんなが楽しめるようにすることが、ベストソリューションだと短絡的に思われがちですし、わたし自身もよくそういう方向でゲームプレイに関わってしまっていると思います。

でも、そんなかたちでファシリテーターに依存しなくても、私たちは、ゲームを自分たち自身で楽しめるようにするための場を、自分たち自身で作り出せる。
ボードゲームが、そんなかたちで、私たち自身がその場にいる人たちと皆で楽しみあえる場をつくる「練習場」になるのだとしたら、そういうプレイの場を易々と放棄するのは、あまりにももったいないのではないか。

そうであるとすると、「ボードゲームで社会が変わる」「ボードゲームで社会を変える」ために、わたしたちは、どんなプレイの場を用意できるのか。

そんなことを考えさせる本でした。

ボードゲームで社会が変わる: 遊戯するケアへ (河出新書)