kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

全国大学国語教育学会ラウンドテーブル「国語科教育における『読解力』を問い直す:リーディングスキルテストをめぐる議論を中心に」

2019年10月26日から27日にかけて開催された、全国大学国語教育学会仙台大会(プログラムPDF)では、2日目に「国語科教育における『読解力』を問い直す:リーディングスキルテストをめぐる議論を中心に」と題されたラウンドテーブルが開催されました。

 

ラウンドテーブル3

国語科教育における「読解力」を問い直す―リーディングスキルテストをめぐる議論を中心に― 〈230教室〉発表要旨PDF

コーディネーター :間瀬茂夫(広島大学

登壇者:

 犬塚美輪(東京学芸大学)「リーディングスキルテストの開発コンセプトとねらい」

 冨安慎吾(島根大学)「RSTと国学力学習状況調査」

 荷方邦夫(金沢美術工芸大学)・石田喜美 (横浜国立大学)「国語教育における「読解力」とは何か」 

 

指定討論者:

渡辺貴裕(東京学芸大学

 

はじめに、コーディネーターの間瀬先生から、本ラウンドテーブル開催の経緯が説明されました。全国大学国語教育学会の研究部門委員(前期)の議論の中で、新井紀子(2018)『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)が話題になり、その中では、下記の3つのポイントと指摘されてきたということでした。

 

 

① RSTの定義する「読解力」が、これまでの国語教育学の研究・実践がとらえようとしてきた「読解力」とは異なる点

②「中学生は教科書が読めない」という主張を導く根拠となるRSTにおける説もねが、元の教科書の文脈とはことなる点

③他教科の教科書の読解に関して、全国大学国語教育学会が実証的な研究を十分に行ってきていなかったという点

 

このような問題意識から、リーディングスキルテスト(RST)およびそれが測ろうとしている「読解力」について丁寧に議論をすべきではないか、という話になり、それが今回のラウンドテーブルへと結実したとのこと。

間瀬先生ご自身も今回の登壇者である冨安先生とともに、「RSTとはどのような特徴を持つテストなのか」にかかわる調査・研究を行い、下記のようなかたちで「各種国語学力テストとの関係での位置付け」を行ってきたということで、下記のような図が示されました。

f:id:kimisteva:20191030214347j:plain

間瀬先生のご発表内容のメモをもとに作成した図

「批評的―適応的」「言語的―論理的」という二軸で整理してはどうか、というご提案は、RSTのみならず、現在さまざまに言われている「読解力」の議論を整理するうえでも有用だと感じました。

 

1.犬塚美輪(東京学芸大学)「リーディングスキルテストの開発コンセプトとねらい」

 はじめのご発表は、RSTの研究チームのメンバーでもある犬塚先生による「RSTの開発コンセプトとねらい」に関するご発表でした。

学習者は「読んで理解できる」と期待されている文章を、実際にどのくらい理解できているのか」という開発の出発点にあった問いや、RSTのテスト設計の考え方などについてご説明があったのち、「RSTは何を測ろうとしているか(測るもの/測らないもの)」についてのご説明があったのですが、これはとても重要であるように思いました。

犬塚先生によれば、「RSTが測るものは、他のテストと異なる」ものであり、以下のものに焦点を当てているとのこと。

 

①短文の理解だけに焦点を当てている

⓶明示された情報の表象:テキストは広い領域の中での一部分のみ

③近い推論:テキストを読む中で広がっていく推論のうち、近い領域での推論のみを対象にしている。「ここまでは踏み出しても安全だろう」という範囲内での推論のみが対象。

 

そのため、「RSTは、広い世界の中のごく一部しか扱っていない」という批判があるが、それはそのとおりであろうとおっしゃっていました。しかしだからこそ、その範囲で「測れるもの」、その範囲に焦点を当てることでしか見えてこないものもあり、RSTはそれこそを対象としている、ということなのだと思います。

2019年9月に発売された『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子, 東洋経済新報社)では、RSTが視力検査にたとえられるなど、RSTの中で「測れるもの/測れないもの」ということがかなり語られるようになってきた印象を持っていましたが、それとまったく同じ印象を、犬塚先生の発表からも受けました。

 

 

2.RSTと全国学力・学習状況調査(冨安)

冨安先生のご発表は、このようなRSTの「測るもの/測らないもの」の特徴を、「読解力」にかかわる他のテスト―全国学力学習状況調査とPISA-との比較によって浮きぼりにしてくださったように思います。

冨安先生が注目していたのは、「PISA2018」における「読解力」調査のフレームワークとして新たに追加された「流暢に読む」という項目。

RSTにおける「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」の設問は、この「流暢に読む」にかかわる問題といえるのではないか、と分析します。

 

OECD-PISAによれば、「流暢に読む」という項目は、「読解レベルが低い学習者の違いを説明し理解するための貴重な指標」「単一または複数のテキストで高次の理解タスクを実行するための資源が少なくなっている」という理由で、新たに導入された項目とのこと。

そのような意味では、「読解レベルが低い学習者の違いを説明し理解するための指標」として、RSTを捉えるということもできるのかもしれません。

他方、全国学力・学習状況調査における生徒のスコアとRSTのスコアとの関連を見てみると、「流暢に読む」に分類されるのではないかと考えられた「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」のスコアと「熟考・評価」にあたる設問のスコアの相関が高いことも明らかに。

冨安先生はこれについて、「ミクロ構造を問う基礎的読解力の高低が、評価・熟考に関連しているのではないか」と考察しています。

 

3.荷方邦夫(金沢美術工芸大学)・石田喜美 (横浜国立大学)「国語教育における「読解力」とは何か」 

最後の登壇者である荷方先生は、「国語教育における『読解力』とは何か」というタイトルで、文章理解に関する心理学的研究を参照しながら、文章の理解は、純粋に統語的でもなく、意味的でもない」ことを示したのち、今年度に入って行われた実験調査の結果が報告されました。

その調査は、同じ構造を持ちつつ、背景となる知識領域の異なる文章を作り、背景的知識の難易による正答率の差を調査するというもの。

設問は「係り受け解析」「照応解決」のみで作成されました。調査は、大学生を対象とした予備調査のあと、中学生(中学1年生~3年生)を対象に実施され、多くの設問で背景となる知識領域が「難しい」ものに比べ、「易しい」もののほうが有意に回答率が高かったとのことでした。

「テキストベースとしての表象」「状況モデルとしての表象」という2つの表象を考えたとき、たしかに国語教育は「テキストベースの表象」に焦点化していなかったかもしれない、という問題意識が示されながら、では、国語(科)教育はRSTをいかに活用できるのか、という問題が提起されました。

 

その後の、指定討論者の渡辺先生から、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』における、「教科書が読めない」という結論を導き出すための理路の問題や、使用されている「教科書」の不適切な用いられ方について指摘があったのち、「リーディングスキルテストが測っているものとは何なのか」「リーディングスキルテストを、国語教育で活用することができるのか」「そもそもRSTで測った能力を『伸ばす』ことができるのか」といった点について議論が行われました。

私にとっては、議論の最後のまとめの中で、荷方先生がおっしゃったことが印象的でした。

荷方先生は、RSTが文章理解やその教育・学習といったものを超えた、もっと幅広い能力(知能)ものをはかっているのではないか、と指摘し、RSTが測っているものがいまだ未知であるような状況で、「走りながら考えている」ことの危うさを指摘します。

「走りながら考えていくべき問題」「ある程度の結果が見えてきたあとに、動くべきかどうかを判断する問題」がある。もちろん、行政側の問題、実践現場の問題、他の研究者の問題などさまざまな問題がここには存在しているが、動きだしてしまったことによる影響をメタ的な視点から見定めることも、研究を行っていく者としては必要なこと。

 

そのような意味では、今回、RSTが提起したさまざまなレベルの問題をひとつひとつ腑分けしながら、丁寧に議論していくことは、今後ますます必要なことなのだろうと思います。

今回のラウンドテーブルは、まさにそのためのスタートの場になっていたように思いました。