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kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

学習指導要領にインプロ的に応答する

 「ジャパン・オールスターズ」の一員として翻訳を行った、キャリー・ロブマン&マシュー・ルンドクィスト(2016)『インプロをすべての教室へ 学びを革新する即興ゲーム・ガイド』(新曜社)が無事に発行され、本日わたしの手元にも書籍が届きました。

 

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訳者のひとりとして関わりつつ、一読者としてとても楽しみに待っていたインプロ・ゲームの本なので、こうして手元に届いたことがとてもうれしく、本書に掲載されている100以上もの即興ゲームを見ながら、さまざまな妄想をふくらませています。

 

もちろんすでにさまざまなインプロ・ゲームに関する本が世の中に流通していますし、インプロ・ゲームをはじめとしたさまざまインプロの手法を学校教育に適用するための本も、いくつか発行されてきています。

 

昨年度(平成27年度)から使用されている光村図書の小学校・国語教科書には、「話すこと・聞くこと」の教材として、劇作家・演出家の鴻上尚史さんが監修したアイスブレイク教材が掲載されていたりして…、かなり学校教育とインプロが近いところに来ている印象を持っていたりもします。

www.mitsumura-tosho.co.jp

そんな中、この書籍が特別なのは、国語や算数、理科、社会などの教科学習のなかにインプロを取り入れるための具体的なゲームの提案があること、そして、それらのインプロ・ゲームに教師や子どもたちが楽しく取り組んでいくなかで、学校での学びの限界を超えていけるような仕組みになっていることがあるのではないか、と思います。

 

国語教育関係の仕事をするようになってから、さまざまな機会に『学習指導要領』について学生たちや現場の先生たちと話すことが多いのですが、そのたびに、『学習指導要領』とはなんと不思議な存在なのだろう、と思わされます。 

「『学習指導要領』はすばらしい!すごく好き!」と言わんばかりの方がいる一方で、「『学習指導要領』なんて、あんなものなくなった方がいい!」という方もいる、もちろん「『学習指導要領』って何?見たことも食ったこともありません」(ポカーン)という方もいるのですが、教育に関わる方の『学習指導要領』への反応は、けっこう両極端なことが多いように思います。

 

そんなことを感じていたときに、たまたま自分が翻訳にあたっていた箇所(第4章)のなかで、次のようなことが書かれていて、とても感銘を受けました。

 

一方、私たちは、教師たちがより広い意味でいうところの即興能力を発達させることで、読み書きの指導が有益なものとなるであろうとも信じています。

新しいカリキュラム、教育方法、子どもたちに読むことを教えるための最善な方法に関する指示が、しばしば教師に突きつけられます。私たちは、子どもたちに読み書きを教える、ある特定の指導技術に賛同するわけではなく、教師が行うよう求められていることに対するインプロ的な応答が存在すると信じているのです。(p.76)

 

 新しいカリキュラムや教育方法が、ひっきりなしに現場に提案され、教師たちに突きつけられる。教師たちは、次々と出てくるそれらの提案や指示に対してなんとか対応することを求められる。

…そんな状況は、どうやら、米国も日本もあまり変わらないようです。

本書の著者たちは、次々と繰り出されるそれらカリキュラムや教育方法などに関する指示・提案を、(インプロ用語でいうところの)「オファー(offer)」として受け止め、それに対して、インプロ的に応答してはどうか、と提案します。

参考:インプロ カレッジ 図書館 用語編 | IMPRO. COLLEGE

 

わたしたちも、「学習指導要領」をそんなふうに受け止められないだろうか、と思う。

もちろん「学習指導要領」の決められるプロセスやその内容、その強制力に関しては、クリティカルであるべきです。 求められている内容を相対化し、分析し、クリティカルな距離を置きながら、ベストな授業のありかたを考えることは、もちろん大切でしょう。

しかしそういう、分析的・批判的な関わり方とは異なる方法で、「学習指導要領」を受け取り、それに対して応答しながら、教師も子どもも発達できるような創造的な学びの場をつくっていくことはできるのではないか、とも思います。

 

少なくとも、これまで見させていただいた授業の中には、いろいろな意味で「学習指導要領」と対話的に、あるいはインプロ的に応答しながら、子どもたちとともに創造的な学習の場をつくりあげているようなものがありました。

そうしてできてきた、授業の場の目標は、もちろん「『学習指導要領』に準拠している」とはいえるけれども、けしてそこに収まるものではない。

いわば、『学習指導要領』が創造的に破壊・再創造されている。――そういう学習の場を作り出すことが、できるのではないか。

 

『学習指導要領』に対してインプロ的に応答すること。

(さまざまな限界と可能性をもつ)学校的な教育のありかたそのものに、インプロ的に応答していくこと。

このことについて、もう一度、本書を読み直しながら考えてみたいと思います。

 

興味を持ってくださった皆さまも、ぜひ、お手にとってみていただければ幸いです。