kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

教員免許更新講習「やってみよう!国語科におけるICT教育」

本年度から、教員免許更新のための講習として、「やってみよう!国語科におけるICT教育!」という科目を担当することになりました。

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小学校・中学校の先生方を対象とした講習で、「授業でICTを利活用すべし」という声があることも知っているし、なにか使ってみたいとは思っているけれど、具体的にどのように使っていけばいいのか手がかりが得られない…という方に向けた講習(のつもり)でした。

 

しかし、実際に講習がはじまってみると、そこにいらっしゃる方の「ICT活用度」は本当にさまざま。「なんでこの講座を受けようと思ったんだろう…?」というくらい、ICTを使いこなしていると思われる方もいれば、キーボードの文字入力ひとつひとつにも困難を覚えていらっしゃる方までいらっしゃいました。

 

そんな「ICT活用度」に大きな差がある参加者をお迎えした講習でしたが、それでも、やっぱり、皆さんと一緒に、なにか、ICTを使った表現・交流活動を行ってみたい!ということで、「NHKクリエイティブ・ライブラリー」を活用したICTによる表現活動とその交流を行ってみることにしました。

今回とりあげたテーマ活動はこちら

www1.nhk.or.jp

 

5~6人のグループになって、グループで「百人一首」の歌を一首選んでいただき、グループのメンバーそれぞれに、百人一首動画を作成してもらいました。

学習指導要領にインプロ的に応答する

 「ジャパン・オールスターズ」の一員として翻訳を行った、キャリー・ロブマン&マシュー・ルンドクィスト(2016)『インプロをすべての教室へ 学びを革新する即興ゲーム・ガイド』(新曜社)が無事に発行され、本日わたしの手元にも書籍が届きました。

 

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訳者のひとりとして関わりつつ、一読者としてとても楽しみに待っていたインプロ・ゲームの本なので、こうして手元に届いたことがとてもうれしく、本書に掲載されている100以上もの即興ゲームを見ながら、さまざまな妄想をふくらませています。

 

もちろんすでにさまざまなインプロ・ゲームに関する本が世の中に流通していますし、インプロ・ゲームをはじめとしたさまざまインプロの手法を学校教育に適用するための本も、いくつか発行されてきています。

 

昨年度(平成27年度)から使用されている光村図書の小学校・国語教科書には、「話すこと・聞くこと」の教材として、劇作家・演出家の鴻上尚史さんが監修したアイスブレイク教材が掲載されていたりして…、かなり学校教育とインプロが近いところに来ている印象を持っていたりもします。

www.mitsumura-tosho.co.jp

そんな中、この書籍が特別なのは、国語や算数、理科、社会などの教科学習のなかにインプロを取り入れるための具体的なゲームの提案があること、そして、それらのインプロ・ゲームに教師や子どもたちが楽しく取り組んでいくなかで、学校での学びの限界を超えていけるような仕組みになっていることがあるのではないか、と思います。

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わたしの言葉/わたしたちの言葉――横浜国立大学附属中学校研究発表会

 先日開催された「平成27年度 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校研究発表会」に参加してまいりました。

私が参加したのは、2日目(20日(日))に行われた国語科の研究発表。

国語科では「『ことば』への認識を協働的に育む指導と評価」というテーマで、中学1年生の生徒たちが、1年間かけてとりくんできた「言葉ノート」を題材にした、「書くこと」の授業が行われました。

 

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(画像は、「研究発表会2次案内」(PDF)より抜粋)

 

授業は体育館で行われたのですが、体育館内には、附属横浜中学校の生徒たちが取り組んでいる「言葉ノート」の実物なども展示されており、この授業がどのような文脈の中で行われるものなのか、を知ることができます。

 

こちらが、「言葉ノート」*1

A6サイズのコクヨ・Campusノートが使われていました。

表紙には、生徒たちが思い思いに書いたタイトルも。この生徒はおそらく、「この『言葉ノート』の活動を通じて、自分を変えていくぜ!」と気合いを入れて、「言葉ノート」の活動に取り組みはじめたのでしょうか・・・?

『必殺!!変身ノート』という、かなり気合いの入ったタイトルになっています。「必殺」したい対象が何なのかについては、詳しくお伺いしたいところです*2

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この生徒は、かなり気合いの入った感じになっていますが、もちろん、そんな生徒ばかりではありません。『コトバ散歩道』『一連花生』など、エッセイ集のようなタイトルもあれば、『自分だけの広辞苑のように、辞書・事典を意識したタイトルもあります。それぞれの生徒による『言葉ノート』の意味づけによって、タイトルの付け方が様々あります。

 

生徒たちは、それぞれのタイトルに従って、あるいは、途中から方針を変えたりしながら、1年間、日常生活や学校生活で出会ったときに自分のなかの琴線に触れたさまざな言葉を、『言葉ノート』に書きためてきたようです。

 

こちらは、ツイッターで流れてきたという、いわゆる癒し系の言葉。いわゆる「ポエム」と言ってもいいかもしれません。

SNSを通じて流れてくる「ポエム」的なものに共感してしまうあたり、現代の子ども・若者っぽさをなんとなく感じてしまうわたしです。

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一方、そういう、「現代の子ども・若者っぽさ」を、乗り越えてくる言葉があるのも面白いです。

こちらは、どこかの町にあるらしい「手羽先二郎」というお店の名前。

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店の名前に注目しているのも面白いですが、なによりこれが面白いのは、「この言葉の意味は書いている私自身よくわからないのですが、」と言っているところですよね。

一般的には、「わかる」ものこそ「面白い」とされたり、高い評価を与えられたりするものですが、この生徒は、「わからない」けど「面白い」ものに気づいている。

なんだかよく「わからない」けれど、それでも、考える価値があるもの、『言葉ノート』に書いておく価値があるものがある、ということに気づいただけでも、大発見だと思います。

 

そして、(おそらく)『言葉ノート』を書きつづけるどこかのタイミングで、「このノートを、これからも続けよう」と思い立ち、はじめに名付けた『はじまり』というタイトルの下に、「No.1」と書き加える生徒もいたようです。

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こうやって、学校という文脈のなかで、教師から与えられたツールが、学習者自身の文脈の中に位置づけられていき、学習者のなかで意味をもっていくことって、ステキなことだなぁ、と思います。

 

今回は、この『言葉ノート』をもとにそこから、①「自分だったらこの言葉を残したい!」と思うものを選ぶとともに、②友達から「あなたらしい言葉」を選んでもらい、それを受けて、A4版×2枚(あるいはA3×1枚)に「言葉のノート抄」をまとめる・・・という活動が行われました。

 

*1:写真撮影の能力が低くて申し訳ありません。

*2:写真に記されている個人名は削除しています。以下の写真も同様です。

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わたしとわたしでないものをつなぐ「メディア」――東京学芸大学附属小金井小学校・校内研究授業――

東京学芸大学附属小金井小学校で行われた校内研究授業・研究協議会に参加して参りました。

www.u-gakugei.ac.jp

今回、私が拝見させていただいた国語の研究授業は、校内研究授業の最後の回にあたります。附属小金井小学校では、これまで年7回このような校内研究授業・研究協議会を公開で実施されてきたとのことでした(PDF)

 

今回、教材としてとりあげられたのは、光村図書の小学校国語教科書・1年下巻にとりあげられている『どうぶつの赤ちゃん』(参照:教材別資料一覧 1年 | 小学校 国語 | 光村図書出版

作者は、増井光子(ますい みつこ)さん。「よこはま動物園ズーラシア」開園時から園長を努められ、昨年(2015年)4月に亡くなられた方です。上野動物園に在籍されていた頃には、パンダの繁殖に成功されています。まさに日本の動物園の歴史をつくってこられた方ですね!

 「よこはま動物園ズーラシア」をめぐる増井光子さんの思いについては、こちらの記事(くらしと保険 WEB.05 いのちを守る 増井光子さん)でも読むことができますし、増井さんが、2010年6月にBankARTstudioNYKで行われた講演「生物多様性と私たち­の暮らし」を、現在でもオンライン上で見られます。

 

 

 『どうぶつの赤ちゃん』がこのような教材であることもあり、この教材と動物園をつなげられると楽しいだろうなぁ・・・と思っていたところ、東京学芸大学附属小学校の子どもたちが遠足で多摩動物公園に行っていることがわかり、さらに、授業者の筧先生も、今回の単元に取り組まれるまでの前段階として、子どもたちが動物に関心を持てるようなさまざまな学習活動を展開されてきたことがわかり、今回の授業を拝見するのをとても楽しみにしておりました。 

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情緒的なつながりへの過剰な配慮について――アクティブ・ラーニングにおける人間関係――

大学院の演習授業の発表で、ある研修生の方が「協働学習」についての発表をしてくださったことがきっかけとなり、大学院生たちと、高等学校におけるアクティブ・ラーニングについての議論が行われました。

 

「高等学校におけるアクティブ・ラーニング」といえば、昨年12月に東京大学日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によるポータルサイト「マナビラボ」がオープンし、アクティブラーニングに関する初の全国調査とも言われる「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する全国調査」の分析結果が公開されたこともあり、非常にホットなテーマでした。

manabilab.jp

 

授業での議論のなかで話題になったのは、協働学習などを中心とした、アクティブ・ラーニング型授業を導入・実施する際に、教師側も生徒側も、情緒的な人間関係を重視しすぎているのではないか、ということでした。

 

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LGBT・セクシュアルマイノリティ教育のための学習リソース集@神奈川

NPO法人Re:Bitによる公開講座「LGBTの自立/就労を応援するためにできること」@横浜))に参加してきました。

LGBTとは、「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルトランスジェンダー」の頭文字をとった総称で、一般的には、セクシュアルマイノリティを包括的に示す言葉として使われることの多い言葉です(定義はこちら

rebitlgbt.org

この公開講座は、今年度3回シリーズで開催される予定で、今回はその2回目。1回目は先週、「LGBTってなんだろう?」というテーマで開催されたということでした。さらに、その数日前には、同じ会場で、LGBTの若者を対象にした「10~20代のジョブトーク!」@横浜も開催されていたようで・・・、「横浜レインボーフェスタ」といい、なんだかすごいぞ、横浜!というかんじがします。

 

事実、横浜市は今年から、LGBTへの支援を充実させるべくさまざまな事業を展開しているようです。神奈川新聞のこちらの記事では、横浜市が今年11月からLGBT支援を充実させるためにはじめた2つの事業(交流スペース事業、相談事業)が紹介されています。

www.kanaloco.jp

 

さて、本日の公開講座では、「LGBTの自立/就労を応援するためにできること」というタイトルで、Re:Bit代用理事でもあり、認定キャリアカウンセラーでもある薬師実芳さん自身が、LGBT当事者のキャリアサポートをするなかで出会った、LGBTの自立/就労上の困難についてもお話がありました。

 

その中で、学齢期の児童・生徒たちの問題として挙げられていたのが、「働くおとな」としてのロールモデルの不在。社会のなかではたらくLGBT当事者のイメージがないため、うまくキャリア形成をしていけない・・・という問題があるようです。

 

今年の6月に朝日新聞のウェブ記事で紹介されていた、LGBTカップルの「かぞく」の動画は、LGBTの「おとな」「かぞく」として生きることの具体的な姿をわたしたちに見せてくれました。

www.asahi.com

これと同じように、LGBTとして「はたらく大人」の姿をつたえることが、LGBTに関する教育を、キャリア教育の視点から考えていくための第1歩として、必要なことなのかもしれません。

では、学齢期の子どもたちに「働くおとな」としてのロールモデルを持ってもらうには、どうすれば良いのでしょうか?

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いつものご飯の喜び/架空のご飯の誘惑――ビブリオバトル@ゼミ

お題「秋の夜長に読みたい本」・・・ということで、先日、ゼミナールで開催した「ビブリオバトル」について報告します

 

わたしのゼミは、今年の10月からスタートしたばかり。

ゼミへの参加を希望してくれる学生たちが気になっていること、やってみたいことを聞きながら、ゼミでの活動を考えていくことにしました。

そんなかたちではじまったゼミの第1回で、ある学生が自分のアルバイト先(おそらく、塾講師)での経験から、「ビブリオバトル」についての話題を出してくれました。

他の参加者に聞いてみたところ、どうやら、「ビブリオバトル」そのものを知らない学生も多く、ほとんどの学生は経験したことがないとのこと。

「では、なにはともあれ、まずはやってみよう!」ということで、みんなで「ビブリオバトル」をやってみることにしました。

 

今回のテーマは、「食」

 

ゼミナールのLINEグループを通じて、公式ルールをみんなに知ってもらい、ほかに何か質問があればその都度、聞いてもらうことにして、それぞれ準備を進めてもらうことにしました。

そんな感じで実現した「ビブリオバトル」のなかで、学生たちが紹介してくれた本をお示ししたいと思います。

 

まずはじめに紹介してくれたのが、よしながふみきのう何食べた?(1) (モーニング KC)』。

 



よしながふみさん自身が、糸井重里さんとの対談で、「食べもので、ゲイの人がいる話」と説明されているくらい、「食」がいろいろなドラマの中心に置かれている作品。

よしながふみさんの作品の多くには、「食」が重要な役割を果たしているものが多いのですが、これはまさにその代表作といえるでしょう。

よしながふみ作品における「食」については、こちらの論考(講演会記録)で、「食とジェンダー」の視点から分析されていて、大変興味深かったです。

 

青山友子(2010)「よしながふみのマンガに見る<食>とジェンダー」『比較日本学教育研究センター研究年報』

 

そして、よしながふみ作品で「食」といえば、こちらのエッセイマンガも外せないですね。他の作品と比べて評価のわかれるところもあるようですが、「よしなが作品における「食」の意味を考えるうえでは、外せない!」と個人的には思っています。

 

 

「食」といえばこれ!…ということで、2名もの学生が紹介してくれたのが、瀬尾まい子『幸福な食卓 』。中高生におすすめする本の定番品でもあるようで、「『食』をテーマにした本」ということで、他の人からおすすめされる定番といえば、この本のようです。

人生のなかで起こるさまざまなドラマのなかで、変わらずそこにあるものとしての食卓。戻ってくるための“拠り所”としての「食」が、そこには描かれているということなのでしょう。

 

3番目に紹介された、群ようこかもめ食堂は、まさに、そういう“拠り所”としての「食」の場をつくりたい、という思いが、見の丈にあったかたちでゆっくりできあがっていく話といえるかもしれません。

心の“拠り所”としての「食」は、奇妙なかたちで、それを取り巻く人間たちの関係をつないでいきます。

次に紹介された、有川浩植物図鑑』は、そんな「食」がつくりだす、人間たちのつながりを「恋愛」としてクローズアップした作品といえるかもしれません。

 

紹介されたときには、カバー裏や口絵に描かれたたくさんの野草の写真も紹介されたりして、まさに『植物図鑑』(!)という感じがしましたが、作品そのものは、有川浩さんらしい、ちょっと変わった恋愛ストーリー。

そんな物語を、「食」という視点から紹介しれもらったことで、また違った魅力が見れたような気がしました。…そうか『植物図鑑』は「食」の話でもあったのか。

 

「これも『食』?」と言いたくなるような本の紹介といえば、最後に紹介された、上原菜穂子『獣の奏者』。

 紹介してくれた方からは、ファンタジー作品である本作の中に出てくる、架空の食べ物の魅力について語っていただきました。

リアルには存在しない食べ物であるにも関わらず、なんだかおいしそうな、架空世界の食べ物たち。どんなものだかわからないこそ、ミステリアスな魅力にあふれていて、だからこそ余計に美味しそうに感じてしまう。…そういう気持ちはだれしも持ったことがあると思います。

 

九井諒子ダンジョン飯 (ビームコミックス(ハルタ))』は、なんだかわからないけど美味しそう!…と思ってしまう、ファンタジー世界の架空の食べ物へのあくなき欲望(?)をうまく掬い取ってくれたマンガだという気がしています。

 

 

今回のビブリオバトルではご紹介するチャンスがありませんでしたが、わたしが用意していた本は、「あの物語に出てきたあの食べ物が食べてみたい!」 という、わたしたちの夢を叶えてくれるレシピ本たちでした。

 

ひとつひとつ、見るたびに新たな発見と感動があり、いずれも選びがたかったので、今回は、ご紹介するだけで済んで良かったかもしれません。

 

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なお、今回のチャンプ本は、群ようこかもめ食堂でした!

わたしも、すでに映画は観ていたものの、ご紹介を聞いていたら、映画をみてから小説を読むのもステキだなぁ、と思ってしまい、即座に紹介者の方からお借りして読んでしまいました。

映画の美しさとはまた異なる、ゆっくりとした時間の流れるステキな小説でした。

 

すてきな本をご紹介いただいた、ゼミナールの学生の皆さん、本当にありがとうございました!