Thony Gameの『ダイアレクト(Dialect)』のプレイ体験会を開催しました。
「ダイアレクト(Dialect)」とは、「方言」「通語・隠語」という意味。
日本語だと「方言」といえば、ほぼ、関西弁や東北弁などの「地域方言」しかイメージされないことが多いのですが、このゲームで扱われているのは、どちらかというと、職業やサブカルチャー共同体で用いられるような「社会方言」の方ですね。
そういう意味で、日本で売り出すとしたら「ジャーゴン(jargon)」にしたほうがいいのかもしれない。「ジャーゴン」もそんなに知られている用語ではないとは思いますが、「ダイアレクト」よりは聞き覚えがある人が多い気がします。
さて、この『ダイアレクト』というゲームですが、公式サイトには、次のような説明が書かれています。
『ダイアレクト』は、孤立無援のコミュニティと、彼らの言語、そして言語が失われることの意味することについてのゲームである。このゲームであなたたちは、孤立体(Isolation)の言語(language)を構築することによって、その孤立体の物語を語っていく。新たな単語(words)は、コミュニティの基盤となる諸相(aspects)からもたらされる。基盤となる諸相とは、すなわち、彼らが何者であるのか、彼らが何を信じているのか、そして、彼らがいかに変わりゆく世界に応じるのか、である。(Dialect – Thorny Games)(訳は引用者)
はじめに、どの世界観で遊ぶかを決めます。
ファシリテーターから5つの世界観が示されて、参加者5名の投票によって、どの世界観をプレイするかが決められます。
このとき、はじめに、「遊びたくない」世界観を全員に表明してもらったのち、それ以外のものから選ぶ…というやりかたは、ステキだなと思いました。「遊びたくない」もので遊んでいたって、楽しくないだけですからね!
今回プレイしたのは「わたしは歌う、電子の地球を(Sing the Earth Electrnic)」。*1
人類をはじめ、あらゆる動植物が死滅したあとの地球で、残されてしまったたくさんのロボットたちのうちの一部が、自らの言語を話せるようになってしまった…という世界観ですね。
今回プレイしたようなSF的な世界以外では、歴史ファンタジー、エリート男子高(!)、オンライン家族、おもちゃ箱の住人といった世界観があるようです。
ちなみに、わたしがはじめにプレイしたのは「おもちゃ箱の住人」でした。
次に、コミュニティの基盤となる諸相(aspects)=「アスペクト」を決めます。
今回は、(1) ロボットたちの職務、(2) 人間性の影と、あとは(3)フリーでなにか、という感じでした。
(1) ロボットたちの職務は、「自然環境の回復」
(2) 人間性の影としては、「死の恐怖」がある。
(3) フリーのアスペクトとしては、「(言語を話すロボットは)ロボット階級の最下層にいるため、反乱を企てている」というような内容でした。
すでに、なんか物語が始まっているようです。
「アスペクト」が決まったら、次は、世界観に応じた設定について考えるための質問について、プレイヤー全員で考えていきます。
今回の世界観では、「現在の地球の姿は?なぜ生物が死滅したのか?」とか、「ロボットの動作不良が起きたらどうする?」とか、そんな感じの質問が5つあり、5名のプレイヤーで1人1問設定を考えていきました。
ここまで設定が決まってきたところで、この隔絶されたコミュニティの名称=「アイソレーション」を決めます。
今回は、わたしが静岡土産の「オオグソクムシせんべい」を開きはじめてしまったせいで、「オオグソクムシ」に決まってしまいました。皆さん、ごめんなさい!
チーム名が決まったら、いよいよ、それぞれのキャラクターを決めるのですが、このときに、キャラクターの特性を決めるためのカードが配られます。1人3枚ずつカードが配られ、そのうちの1つを選び、自分のキャラクターの属性とするという感じです。
プレイは、全部で3ターン。
プレイヤーには、隠語・通語(Dialect)を作るためのカードが3枚ずつ配布されます。
自分の手番がきたプレイヤーは、そのうちの1枚を選び、コミュニティの基盤となる諸相=「アスペクト」と関連づけるかたちで、そのカードに書かれている「意味」を提示し、その「意味」とアスペクトとの関わりを説明します。
ここで「意味」というのは、下記の写真(1ターン目終了後の写真です)でいえば、「死」とか「幸せ」とか「科学技術」です。カードの下に( )で書かれている部分ですね。
たとえば、ロボットたちですので、「死」といえば、動作不良を起こして動かなくなることを意味するのだろう…とか、「自然環境の回復」を目的として活動しているロボットたちなので、「幸せ」とは、地球の自然環境が完全に回復したことを意味する…とか言いながら、アスペクトとの関わりで具体的な意味内容が創りだされていきます。
手番のプレイヤーによって、意味内容が提示されたら、今度はプレイヤー全員で、その意味内容を示す単語などを、「大喜利」方式で創り上げていきます。
たとえば「死」をあらわす言葉(意味内容は、ロボットが不具合を起こして停止してしまうこと)として、今回示されたアイデアは、下記のとおりでした。
エンスト
エラー
ガラクタ
スクラップ
バグ
ゴルゴ
フリーズ
ペンギン
パインサラダ
ピクルス
人間の言葉をつくる力って…すばらしい!!
ひととおりアイデアができったら、今度はプレイヤー全員の投票で、その意味内容をあらわす言葉が決まります。
このときは、「バグ」に決まってました。
こんなかたちで、言葉をつくったあと、実際にその言葉を使ったシーンを、即興的に演じる活動が続きます。
まず手番プレイヤーが、シーンに出てくるキャラクターを決め、そのキャラクターとしてゲームに参加しているプレイヤーが、新たに生み出された言葉を使いながら、即興的なパフォーマンスをするわけです。
即興的にシーンが演じられることで、言葉が本当に現実のものとしてのパワーを獲得していくようで……この活動は、見ているだけでも非常にエキサイティングでした。
このような流れを、プレイヤー全員分行って
1ターン目は終了。
2ターン目では、さらにはじめにみんなでエンディングに向かうための物語の方向性を選んだり、新たにカード候補が加えられたりして、ゲームに新たな楽しみが加わっていきます。
2ターン目以降で、個人的に特に興味深かったのは、作り出された言葉そのものにはたらきかけるカードがあらわれること。
例えば、作り出された言葉をなきものにする「死語」カードや、言葉の意味内容のパワーが拡張される「誇張」カードなど……社会言語学的に見て、「確かに、そういう言語現象ある!」と叫びたくなるようなカードの数々が、研究者心(?)をくすぐってくれます。
こちらの写真は、見事、3ターン目までのプレイを終えた、最後の姿。
これだけ見ると意味不明ですが、ここには、果てしない夢を描いたロボットたちの物語(とそこから生み出された言葉たち)があるのです。
『ダイアレクト』、プレイヤーとして1回、オーディエンスとして1回参加しましたが、プレイしても、観ているだけでもどちらでも楽しいゲームだと思いました。
そして、言語学とTRPGとの相性の良さにあらためて気づかされました。
社会言語学的な発想でこんなゲームができるのだったら、エスノメソドロジー/会話分析にもとづいたゲームも作ってみたい!!
「隣接ペア縛り!」とか、「成員カテゴリー化装置発動!」とか、けっこうゲーム的にいけてるんじゃないか?とかそんな妄想ばかりが広がります。
*1:「Sing the body electrnic」が「わたしは歌う、電子の躯を」と訳されることがあるようなのでそれに倣ってみました。