kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

学習指導要領にインプロ的に応答する

 「ジャパン・オールスターズ」の一員として翻訳を行った、キャリー・ロブマン&マシュー・ルンドクィスト(2016)『インプロをすべての教室へ 学びを革新する即興ゲーム・ガイド』(新曜社)が無事に発行され、本日わたしの手元にも書籍が届きました。

 

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訳者のひとりとして関わりつつ、一読者としてとても楽しみに待っていたインプロ・ゲームの本なので、こうして手元に届いたことがとてもうれしく、本書に掲載されている100以上もの即興ゲームを見ながら、さまざまな妄想をふくらませています。

 

もちろんすでにさまざまなインプロ・ゲームに関する本が世の中に流通していますし、インプロ・ゲームをはじめとしたさまざまインプロの手法を学校教育に適用するための本も、いくつか発行されてきています。

 

昨年度(平成27年度)から使用されている光村図書の小学校・国語教科書には、「話すこと・聞くこと」の教材として、劇作家・演出家の鴻上尚史さんが監修したアイスブレイク教材が掲載されていたりして…、かなり学校教育とインプロが近いところに来ている印象を持っていたりもします。

www.mitsumura-tosho.co.jp

そんな中、この書籍が特別なのは、国語や算数、理科、社会などの教科学習のなかにインプロを取り入れるための具体的なゲームの提案があること、そして、それらのインプロ・ゲームに教師や子どもたちが楽しく取り組んでいくなかで、学校での学びの限界を超えていけるような仕組みになっていることがあるのではないか、と思います。

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切符をなくした子供たちは都市ネットワークの夢を見るか?―北川貴好「地上階には、つながらない邸宅」

2/25(火)から3/1(火)まで東京・池袋エリアで開催されている回遊型の展覧会、北川貴好「地上階には、つながらない邸宅」に参加してきました。

 

池袋駅からスタートするこの展覧会。
参加者は、SNSのメッセージのようなかたちでスマートフォン上に表示されるいくつかの指示や説明に従いながら、池袋エリアの地上下にめぐらされた地下都市空間を巡っていきます。

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地下鉄、線路、エスカレーター、駅構内にあるショッピングモール、そして、タワービル。
地上からは見えない地下都市ネットワークは、いくつかの「駅」を中継ポイントとしながら、すべてがつながりあっているようです。

本展の作家である北川貴好さんは、タワービルをリサーチする中で、本展の企画をつくりあげていったそうなのですが、個人的には、本展においてもいくつかのエリアの中継ポイントとして機能している「駅」がわたしには印象的でした。

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プログラミング言語の学習カリキュラムをどう組み立てるのか?―愛和小学校×Ludix Lab「i和design冬期講習会」より

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きたる3/21~3/25に、NHKのEテレにて子ども向けのプログラミング学習番組『Why? プログラミング』が放送されるそうです。

先日、NHKにて、出演者の厚切りジェイソンさんによる取材会が行われ、その後、オンラインを中心に話題が広がっています。

www.oricon.co.jp

 

NHKEテレでは、すでに2014年9月と2015年7月に、プログラミングの世界を紹介するバラエティ番組「アルゴリズミ子研究所」を放送して、話題になったこともあります。

www.nhk.or.jp

togetter.com

 

昨年7月には、NHKニュース「おはよう日本」で、「小学生に人気 新たな習い事とは」というタイトルで、小学生の「習い事」として、プログラミング学習に注目されていることが話題として取り上げられていました。

 

文部科学省でも、2015年3月に「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」(PDF)(いろいろツッコミどころの多い資料だったようですが・・・)や、初等中等教育学校向けの「プログラミング教育実践ガイド」を公開し、文部科学省オリジナルのプログラミング学習ソフト「プログラミン」(!)も公開し・・・というタイミングでしたので、このタイミングで、NHK・Eテレが、プログラミング学習の教育番組を企画するのは当然のことかもしれません。

jouhouka.mext.go.jp

www.mext.go.jp

 

このように、プログラミング教育に注目が集まるなか、次に問題になってくるのは、おそらくカリキュラムの問題だろうと思います。

 

冒頭に紹介した番組『Why?プログラミング』でも、教育用のプログラミング言語「Scratch」が使用されるそうですし、文部科学省によって報告されたプログラミング教育の事例集においても、小学校では「Scratch」が利用されているようなのですが、「Scratch」という擬似的なプログラミング言語を学習したあとに、何をどのような順番で学習していけば、「Java」や「PHP」「Ruby」といったプログラミング言語への学習につなげていくことができるのか、という問題です。

 

日経ソフトウェア』の武部健一さんは、次のように指摘しています。

 

さて、日経ソフトウエアとしては、スクラッチでプログラミングに興味を持った子供や大人を、次のステップへ誘いたい、と思っています。ただし、これが目下 の悩みです。というのは、“スクラッチの次”のステップとしてオススメできる適当なプログラミング言語が見当たらないからです。教育用として非常に良くで きたスクラッチが、プログラミングのハードルをあまりにも下げてしまったため、現在主流の言語との間に大きなギャップが生じているように思われます。

記者の眼 - 「スクラッチの次」のプログラミング言語は?:ITpro

itpro.nikkeibp.co.jp

 

実際、文部科学省による事例集を見てみても、小学校から高校までの実践事例から、カリキュラムの連続性を見いだすことが困難です。

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わたしの言葉/わたしたちの言葉――横浜国立大学附属中学校研究発表会

 先日開催された「平成27年度 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校研究発表会」に参加してまいりました。

私が参加したのは、2日目(20日(日))に行われた国語科の研究発表。

国語科では「『ことば』への認識を協働的に育む指導と評価」というテーマで、中学1年生の生徒たちが、1年間かけてとりくんできた「言葉ノート」を題材にした、「書くこと」の授業が行われました。

 

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(画像は、「研究発表会2次案内」(PDF)より抜粋)

 

授業は体育館で行われたのですが、体育館内には、附属横浜中学校の生徒たちが取り組んでいる「言葉ノート」の実物なども展示されており、この授業がどのような文脈の中で行われるものなのか、を知ることができます。

 

こちらが、「言葉ノート」*1

A6サイズのコクヨ・Campusノートが使われていました。

表紙には、生徒たちが思い思いに書いたタイトルも。この生徒はおそらく、「この『言葉ノート』の活動を通じて、自分を変えていくぜ!」と気合いを入れて、「言葉ノート」の活動に取り組みはじめたのでしょうか・・・?

『必殺!!変身ノート』という、かなり気合いの入ったタイトルになっています。「必殺」したい対象が何なのかについては、詳しくお伺いしたいところです*2

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この生徒は、かなり気合いの入った感じになっていますが、もちろん、そんな生徒ばかりではありません。『コトバ散歩道』『一連花生』など、エッセイ集のようなタイトルもあれば、『自分だけの広辞苑のように、辞書・事典を意識したタイトルもあります。それぞれの生徒による『言葉ノート』の意味づけによって、タイトルの付け方が様々あります。

 

生徒たちは、それぞれのタイトルに従って、あるいは、途中から方針を変えたりしながら、1年間、日常生活や学校生活で出会ったときに自分のなかの琴線に触れたさまざな言葉を、『言葉ノート』に書きためてきたようです。

 

こちらは、ツイッターで流れてきたという、いわゆる癒し系の言葉。いわゆる「ポエム」と言ってもいいかもしれません。

SNSを通じて流れてくる「ポエム」的なものに共感してしまうあたり、現代の子ども・若者っぽさをなんとなく感じてしまうわたしです。

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一方、そういう、「現代の子ども・若者っぽさ」を、乗り越えてくる言葉があるのも面白いです。

こちらは、どこかの町にあるらしい「手羽先二郎」というお店の名前。

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店の名前に注目しているのも面白いですが、なによりこれが面白いのは、「この言葉の意味は書いている私自身よくわからないのですが、」と言っているところですよね。

一般的には、「わかる」ものこそ「面白い」とされたり、高い評価を与えられたりするものですが、この生徒は、「わからない」けど「面白い」ものに気づいている。

なんだかよく「わからない」けれど、それでも、考える価値があるもの、『言葉ノート』に書いておく価値があるものがある、ということに気づいただけでも、大発見だと思います。

 

そして、(おそらく)『言葉ノート』を書きつづけるどこかのタイミングで、「このノートを、これからも続けよう」と思い立ち、はじめに名付けた『はじまり』というタイトルの下に、「No.1」と書き加える生徒もいたようです。

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こうやって、学校という文脈のなかで、教師から与えられたツールが、学習者自身の文脈の中に位置づけられていき、学習者のなかで意味をもっていくことって、ステキなことだなぁ、と思います。

 

今回は、この『言葉ノート』をもとにそこから、①「自分だったらこの言葉を残したい!」と思うものを選ぶとともに、②友達から「あなたらしい言葉」を選んでもらい、それを受けて、A4版×2枚(あるいはA3×1枚)に「言葉のノート抄」をまとめる・・・という活動が行われました。

 

*1:写真撮影の能力が低くて申し訳ありません。

*2:写真に記されている個人名は削除しています。以下の写真も同様です。

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愛とは分け隔てること――趣向『The Game of Poliamory Life』

 KAAT(神奈川芸術劇場)で行われた、趣向『THE GAME OF POLIAMORY LIFE』を見てきました。www.kaat.jp

The Game of Polyamory Life

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「ポリアモリー(Poliamory)」とは、合意のうえで、複数の人々と誠実な愛の関係をもつ恋愛スタイルのこと。・・・いや、恋愛スタイルというよりも、より広くライフスタイルそのものであるといったほうが正確かもしれません。

ポリアモリー 複数の愛を生きる (平凡社新書)』の著者である、深海菊絵さんは、『日刊ゲンダイDIGITAL』のインタビュー記事のなかで、次のように説明しています。

 

「ポリアモリーとは、最もシンプルに言えば、『複数のパートナーと誠実に愛の関係を築くスタイル』です。ただし定義は人それぞれ。『合意の上で複数の人と性愛関係を築く』という人や、『結婚制度にとらわれず自分が愛する人の人数を決める』という人もいます」

 

「恋人や伴侶に嘘をついたり、隠すのはポリアモリーではありません。自分の交際状況をオープンにし、合意の上で築く人間関係です。『2人の彼女を誠実に愛 しているが、その状況を彼女たちに伝えていない』男性がいたら、それはポリアモリーではなく『彼なりに誠実な二股』です」

「複数の愛を生きる」深海菊絵氏 | 日刊ゲンダイDIGITAL)

 

おそらく、ここでポイントになるのは「合意」でしょう。

今回の公演に行く以前に、「ポリアモリー」について調べていたときに、わたしの中で引っかかっていたのが、まさに「合意」という言葉でした。もちろんあらゆる恋愛関係において、「合意」は必要なのかもしれないけれど、あまりに相手との「合意」的な関係を強調するあまり、恋愛にともなう(と、通常考えられている)感情的な機微があまり考慮されていないのではないか、と思えたのですね。

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わたしとわたしでないものをつなぐ「メディア」――東京学芸大学附属小金井小学校・校内研究授業――

東京学芸大学附属小金井小学校で行われた校内研究授業・研究協議会に参加して参りました。

www.u-gakugei.ac.jp

今回、私が拝見させていただいた国語の研究授業は、校内研究授業の最後の回にあたります。附属小金井小学校では、これまで年7回このような校内研究授業・研究協議会を公開で実施されてきたとのことでした(PDF)

 

今回、教材としてとりあげられたのは、光村図書の小学校国語教科書・1年下巻にとりあげられている『どうぶつの赤ちゃん』(参照:教材別資料一覧 1年 | 小学校 国語 | 光村図書出版

作者は、増井光子(ますい みつこ)さん。「よこはま動物園ズーラシア」開園時から園長を努められ、昨年(2015年)4月に亡くなられた方です。上野動物園に在籍されていた頃には、パンダの繁殖に成功されています。まさに日本の動物園の歴史をつくってこられた方ですね!

 「よこはま動物園ズーラシア」をめぐる増井光子さんの思いについては、こちらの記事(くらしと保険 WEB.05 いのちを守る 増井光子さん)でも読むことができますし、増井さんが、2010年6月にBankARTstudioNYKで行われた講演「生物多様性と私たち­の暮らし」を、現在でもオンライン上で見られます。

 

 

 『どうぶつの赤ちゃん』がこのような教材であることもあり、この教材と動物園をつなげられると楽しいだろうなぁ・・・と思っていたところ、東京学芸大学附属小学校の子どもたちが遠足で多摩動物公園に行っていることがわかり、さらに、授業者の筧先生も、今回の単元に取り組まれるまでの前段階として、子どもたちが動物に関心を持てるようなさまざまな学習活動を展開されてきたことがわかり、今回の授業を拝見するのをとても楽しみにしておりました。 

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情緒的なつながりへの過剰な配慮について――アクティブ・ラーニングにおける人間関係――

大学院の演習授業の発表で、ある研修生の方が「協働学習」についての発表をしてくださったことがきっかけとなり、大学院生たちと、高等学校におけるアクティブ・ラーニングについての議論が行われました。

 

「高等学校におけるアクティブ・ラーニング」といえば、昨年12月に東京大学日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によるポータルサイト「マナビラボ」がオープンし、アクティブラーニングに関する初の全国調査とも言われる「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する全国調査」の分析結果が公開されたこともあり、非常にホットなテーマでした。

manabilab.jp

 

授業での議論のなかで話題になったのは、協働学習などを中心とした、アクティブ・ラーニング型授業を導入・実施する際に、教師側も生徒側も、情緒的な人間関係を重視しすぎているのではないか、ということでした。

 

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