kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

「デジタルゲーム関連本ビブリオバトル!」参加レポート

図書館総合展期間外企画として開催された「デジタルゲーム関連本ビブリオバトル!」に、バトラーとして参加してきました。

今回、バトラーとして登壇したのは、『ゲーメストEX』元編集長で現在もライターとして活躍されているMW岩井さんVtuber「ゾンビ先生」こと岡本健先生近畿大学・准教授)、ゲーム好き司書さん(仮名)と、ご存じ格闘系司書さん日本図書館協会認定司書/ゲーム司書/図書館とゲーム部)そして、わたしでした。

 

先に引用した、格闘系司書さんによるツイートにもあるとおり、この企画は、2022年11月に発刊された、岩崎夏海・稲田豊史(2022)『ゲームの歴史1』『ゲームの歴史2』『ゲームの歴史3』に対する一連の批判と、SNS上での「炎上」に端を発しています。
これら一連の批判や炎上の様相については、Togetterでまとめられています*1

togetter.com

本イベント「デジタルゲーム関連本ビブリオバトル!」が開催されたのは、4月11日(火曜日)でしたが、その前日には、講談社から「『ゲームの歴史』全3巻販売中止のお知らせとお詫び」が示され、「カウンターとして『素敵なゲームの本を紹介』しあう」ということがどういうことなのか、ということを、あらためて考えざるを得ませんでした。

aoitori.kodansha.co.jp

すでに、岩崎啓眞さんによる18ページの小冊子『書籍「ゲームの歴史」を批判する。概論』をはじめ、『ゲームの歴史』に記載されている事実上の間違いなどを指摘する動きそのものが、(それこそ「炎上」していると言ってよいくらい)大きなうねりを見せていましたし、「では、本当に読むべき価値あるゲーム史の本とは?」ということについてもすでに話題になっているように感じていました。

realsound.jp

本イベントの数日後、今回のイベントにバトラー兼司会者として登壇された格闘系司書さんが、ラジオ「アフター6ジャンクション」に出演していましたが、そのときのトークテーマも、まさにそんな感じでした。

 

henauru.hatenablog.com

すでに、そういう方向で話題が出ていた、とわたしが感じていたことからも察せられるように、おそらくこのイベントが行われたタイミングは、まさに、世の中の人たちが「より確かな『ゲームの歴史』を知るためにはどうしたらいいのか?」ということを知りたがっていた、また、それについて語りたがっていた、というタイミングだったんだろうと思います。

そのようなこともあってか(?)、今回、チャンプ本に選ばれたのは、小山友介(2020)『日本デジタルゲーム産業史』でした。

calil.jp

バトラーとして本書を紹介してくださった、Vtuber「ゾンビ先生」は当日その場にはいらっしゃれず、事前録画した動画をその場で視聴するかたちになりました。
あとから、その動画をYoutubeにアップしてくださったので、「チャンプ本」の紹介動画をこちらでご覧いただくことができます。


www.youtube.com

わたし個人としては、この『日本デジタルゲーム産業史』とか、中川大地(2016)『現代ゲーム全史』とか、もう少し気軽に入手しやすく読みやすいところで、さやわか『僕たちのゲーム史』なんかはきっと誰かが紹介するだろう、と思って外したところがあります。

calil.jp

calil.jp
案の定というか、なんというか、このイベントの翌日に『REAL SOUND』で公開された記事・「『ゲームの歴史』炎上騒動から考える、「本当に読むべきゲーム史に関する本」(向江駿佑, 2023)には、これらの本が紹介されていて、何度も頷きながら読んでしまいました。

…というわけで、本格的なゲーム史を知りたい!という方はここまでの情報で十分、情報が得られるかと。
ここから先は、ビブリオバトルとしての醍醐味(?)!いろいろな立場の人たちが、それぞれにアツい思いから選択した、「素敵なデジタルゲーム関連本」についてのご紹介となりますので、そんなデジタルゲーム関連本(あるいはビブリオバトル)に関心のあるかたのみお読みください。

1番目のバトラーである格闘系司書さんがご紹介くださったのは、

ジェイソン・シュライアー『血と汗とピクセル:大ヒットゲーム開発者たちの激戦記

calil.jp
わたし、今回の「デジタルゲーム関連本」ビブリオバトルで紹介する本として、格闘系司書さんがこの本を選ばれたことそのものが、すごく素敵だな!と思って感動してしまいました。
格闘系司書さんご自身は、この本が、開発現場にかかわる約100名もの人たちへのインタビューによって、開発現場の人たちが経験する喜怒哀楽の波や、その結果として成し遂げられる想定外の出来事の数々のエピソードの魅力についてアツく語っていました。が、わたしにとっては、この本を『ゲームの歴史』のカウンターとしてみたときに見えてくる問い、すなわち、「ゲームの歴史とは、誰から見たときの歴史として記述されるべきなのか」という問いに直面し、そのことに、いたく興奮しました。

「ゲームの歴史」といったときに、それは何の歴史なのか。モノの歴史なのか、人の歴史なのか、そして人であるとしたら、それは誰からみたどのような物語として語られるべきなのか…いろいろな問いが浮かび上がってきます。

そして、わたしは格闘系司書さんが「目次」に書かれた他のゲームについてアツく語っていらっしゃる中、わたしはずっと、かの…いつの間にか消えてしまった幻のゲーム『スターウォーズ1313』のことが気になってしかたありませんでした。

 

-開発中止となった『Star Wars 1313』の新たなプレイ動画が公開 動くボバ・フェットの姿を目にすることができる

(この動画……タイトルからしてすでにエモい…)

youtu.be

 

そして、2番目にVtuber「ゾンビ先生」から、さきほどご紹介した『日本デジタルゲーム産業史』のご紹介があったあと、3番目のバトラーであるゲーム好き司書さんがご紹介くださったのは…

いいだ&なむ『ゲームさんぽ:これは世界の見方を変える遊び』でした。

calil.jp

人気のゲーム実況動画「〇〇といくゲームさんぽ」を書籍化したこちらの本。

www.saynum.com

「ゲームさんぽ」の動画そのものではなく、『ゲームさんぽ』の書籍そのものを「素敵なデジタルゲーム関連本」として紹介してくださったところに、興味を惹かれました。
本書をご紹介くださったゲーム好き司書さんは、日ごろから、「ゲームは学びにつながる」と感じていらっしゃるということで、それをまさに言語化してくれた本!という感じなんだろうなぁ…とお話しを聞いていて思いました。

私自身も、一昨年、教職大学院の授業内プロジェクトの一環として、「ゲームさんぽ」のフォーマットを使った、ゲーム実況型漢文学習教材をつくる(!)という試みをやってみましたが、ゲームのなかに描き出される世界や物語をともに見ながら、語り合う、誰かのお話しを聞く…ということは、自分自身の固定的な世界への見方から少し離れてみる「アンラーニング(learning)」とを、新たな世界への入り口をつくる「ラーニング(learning; 学ぶこと)」の両方につながる可能性があるなぁ…と感じていたところでした。

「世界の見方を変える」というのは、まさにそのような意味なのかもしれません。

kimilab.hateblo.jp

そう考えてみると、たしかに、書籍にまとめられた専門家との対話や、なむさん・いいださんによって寄稿された文章を読むことで、ゲームの世界をともに見ることと「世界の見方を変える」こととがいかにつながりあっているのか、を考えるうえでは、わかりやすいのではないか、と思います。

ゲームそのもの、ゲーム実況動画そのものではなく、書籍だからこそ伝えられる、理解できることがあるのだということに、気づかされるご紹介でした。

 

3番目のバトラーは、わたし。

わたしが紹介したのは、ブルボン小林『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』
カーリルで検索していたら、太田出版から2004年に発売された「自腹文庫」のほうもヒットしたのでうれしくなって両方リンクを貼ってしまいますが、今回紹介したのは「ちくま文庫」のほうです。

calil.jp

calil.jp

ブルボン小林さんのゲームに関するエッセイといえば、おそらく、ファミ通で連載していた『ゲームホニャララ』の方が有名なのかな?と思ったのですが、『ゲームホニャララ』が、一連の記事のなかから選ばれた名作集的な感じがするのに対して、『ジュ・ゲーム・モア・ノンプリュ』は、なんか選ばれていない感じがある(←失礼)、というか、「もう書けない!ゲーム好きだけど、もう疲れたよ!書けないよ!うわー」みたいなやつとかもあったりして、そこが好きなんですよねー。

あるゲームの存在についての情報を入手するところから始まり、入手するまでの一連の労苦があったりなかったりして、そこまでの努力が発売延期とかあるいは発売中止とか(『スターウォーズ1313』を参照)いろいろなことがあったりして、やっと入手できたと思ってもすぐにやる気が起きたり起きなかったりして、いざやりはじめても、どういうタイミングでやったりやらなかったりしたらよいかいまいちつかめなかったりして……と、いつまでたっても、ゲームの周りをうろうろしている日々。そんな日々のなかで、ある日、ふと、ゲームにかかわっていることで見える何かがあったり、うごめく不思議な感情に出会ったりする――そういう、私たちの人生・生活にくっついているようなゲームのあれこれって、たぶん、一口で語れない一方で、おそらく、私たちがゲームについて語る、というのはそういう一人ひとり違った物語を語ることなんだ、とも思います。

そう考えてみると、ゲームを語るための言葉はまだまだ全然足らない。

一方で、そういう「言葉が足らない感じ」そのものをなかなか共感してもらえないもどかしさがあったわたしにとって、『ジュ・ゲーム・ド・ノン・プリュ』はそのもどかしさそのものを掬い取ってくれる本でした。

 

ビブリオバトルでは、「ゲームを語るための言葉」「ゲームを批評するための言葉」が足らない、ということについて、何度も繰り返した気がしますが、それはほとんど通じなかったようです。やっぱり、言葉が足らないし、うまく言えていないのだ、と思います。

いわゆるゲーム業界で定型化された、ゲームレビューの「語り口」ではないところで、一人ひとり異なるわたしたちの人生・生活のなかにあるゲーム、その経験について語り、対話しあい、それによってゲーム文化そのものをボトムアップから創っていくような言葉が足らない、と言いたかったのだけど、きっとそれはまだまだわかってもらえない。あらためて、自分自身の言葉の足らなさを感じた時間でした。

 

最後のバトラーである、NW岩井さんがご紹介くださったのは…
廣瀬豪『7大ゲームの作り方を完全マスター! ゲームアルゴリズムまるごと図鑑

calil.jp

岩井さんが本書の紹介をはじめてすぐに、「この本のタイトルは変えた方がいい」というようなことをおっしゃっていたのが、印象に残りました。

そんな岩井さんが提案されている代替案は、「ゲームで学ぶプログラミング(サンプルゲーム付き)」!…確かにそのほうが売れそうだ!

どうやらこの本、付録として、書籍内で紹介されているゲーム(基本型)のプログラミング・データが入っているということで、一般的な家庭用PCさえあれば、付録にはいっているデータをちょっとずつアレンジしながら、「このようにコードを変更すると、このようにゲームの動きが変わるのか」といったことを知ることのできる仕組みになっているらしいです。
岩井さんは、任天堂の『ナビつき!つくってわかる!はじめてのゲームプログラミング』についてのレビュー記事も書かれていますが、それと比較しても、たしかに本書の良さはあるとのこと。

signal.diamond.jp

それは、やはりヴィジュアル・プログラミングの限界ともいえるもので、『ナビつき!つくってわかる!ゲームプログラミング』は、ヴィジュアルブロックによるプログラミングについて学ぶにはよいけれど、いかにその先に行くのか、ということを考えたときには、やはり本書の良さが際立ちそうです。

わたし自身も、いかに、小学校で行われているヴィジュアル・プログラミングから、中学、高校、大学へと、プログラミング思考(を含むプログラミング関連のリテラシー)を育成するためのカリキュラムを組み立てていくことができるのか、を考えていたことがあったので、「なるほど!」と思わざるを得ませんでした。

kimilab.hateblo.jp

ゲームが動くメカニズムがわかるという意味では、ゲーム・リテラシーの育成にもつながっていきそうです。

5年前に、英国のメディアリテラシー研究者であるアンドリュー・バーン先生を日本に紹介するための翻訳書をいくつか出版してきましたが、そこで論じられていたゲーム・リテラシーを日本の学校教育でも実現するための準備が整ってきたことを実感し、ワクワクしました。

ratik.org

calil.jp

 

『ゲームの歴史』に対する批判をどう受け止め、これから、どのように、ゲームについて語る言葉を考え、創っていくのか。この問いに対する答えは、一つではないはずですし、「より正しい一つの歴史」を目指そうとする努力は、ゲームに対する多様な経験や物語を排除することにもなりかねません。

そのことについて、もっと私たちは語ったり、考えたりする場をもっていくべきなのだと思います。

ICC「多層世界の歩き方」展示より

*1:この「まとめ」を作成された方が、このTogetterまとめそのものによる炎上を回避するため、Mintiにまとめの記録場所を移管されていますが、ここでは直接そちらへのリンクを貼らず、そちらへのリンク先が紹介されているTogetterのほうを記事に貼っています。