図書館総合展ONLINE_plus の期間外企画として、児童書ビブリオバトル「この児童書がすごい!!~科学・学術コミュニケーション編」を開催しました。
このイベントは、図書館総合展内で開催したオンライントークイベント「図書館・レファレンスサービスとゲームとの幸せな関係 ~シリアスボードゲームジャムを事例として」の派生企画。
このオンライントークのなかで、ある参加者の方から、次のような質問がありました。
大学でシリアスゲームを作る授業を行う際
Webニュースなどでそれぞれが調べて課題を調べることになるのですが
浅い知識しか得られずそのままゲームにしてしまうことがあります
レファレンスサービスを利用することで一歩深いところまで
踏み込めるとしたらとても有益に思います図書館でボードゲームジャムをやる以外にも
ゲーム開発時の図書館活用として使えそうなので
「浅い結論にならないための、深い内容を得るためのレファレンス活用Tips」などあれば知りたいです。
これに対して、太田和彦さん(シリアスボードゲームジャム2022実行委員会・委員長)からは、実際にゲームづくりに入る前に、テーマについての「ビブリオバトル」を開催しておくことが、「シリアス」要素を深めるために有効だった、というお話がありました。
また、格闘系司書さん(ゲーム司書)からは、入門書として児童書を紹介してはどうか、という提案がありました。
すると、他の参加者の方から「児童書はとても分かりやすいのですが、大人のプライド的に見てもらえるか?大学図書館では難しいのではないかと…」というコメントが。
これを聞いて、私自身も、大学教育に関わる立場から「わかる、わかる」と思う部分も多々あるものの、一番強く思ったのは、「プライドが邪魔をして、新たな世界との出会いが妨げられてしまっているなんて、なんともったいない!!」ということでした。
「児童書」=子どもが読むものという偏見や、プライドが邪魔をして、「何かを知りたい」「探求したい」と思ったときにその一歩が踏み出せないのだとすれば、これは由々しき問題です。
そうであるとしたら、私たち研究者や、大学図書館で実際に学生たちのレファレンスに応じているような大学図書館司書などの大人たちが、「科学・学術について知るための入門書として、児童書はマジですごいんだよ!!」と熱く語り合うイベントが必要なのではないか、と思いました。
…ということで実現したのが、今回の企画です。
それでは、登壇者のどなたか、どのような本を紹介してくださったのか、振り返っていきたいと思います。
1. 高橋浩徳(監修)『ゲームのスゴイ歴史 (ゲームと生きる!2)』
はじめに登壇した、格闘系司書さんがご紹介くださったのは、高橋浩徳(監修)「ゲームと生きる!」シリーズ(フレーベル館)の第2巻『ゲームのスゴイ歴史』。
今年(2022年)1月に刊行されたばかりの3巻シリーズ。
日本において開発されたゲーム機を中心にその歴史が紹介されています。ゲーム機の歴史をたどることで、過去に開発されたゲーム機の存在によって、新たな世代のゲーム機が生み出されることも見えてきたりして、私たちのいまの遊びが、歴史的に生み出されたものであり、次なる歴史につながるものであることが実感できます。
また各ゲーム機の紹介ページに、その年代におきた社会的な出来事を紹介する年表があったり、そのゲーム機が、教育や社会のなかでどのように受け止められたのか、に関するコメントもあり、ゲームと社会とのかかわりに関する情報を得ることもできる仕様です。
次のバトラー・山崎一希さん(茨城大学/NPO法人教育のためのコミュニケーション)がご紹介くださったのは、科学絵本のテッパン!加古里子(かこさとし)の『宇宙』。
大学広報という仕事のなかで、大学において生み出された知を高校生や一般の人々へとつなぐ試みをなさっている山﨑さん。
その山﨑さんが、科学コミュニケーターとしての加古里子を再発見した、というエピソードがとても印象的でした。また、加古里子を、科学コミュニケーターの偉大なる先人ととらえてみることで、新たな『宇宙』の魅力が見えてきたように思います。
子どものときに読んだときには、絵本の最後にある「解説」を見ることなどほとんどないですが、科学・学術コミュニケーションの入門書という観点から、「解説」にあらためて目を通してみることで、また新たな発見がありそうです。
3番目のバトラーとして登壇されたのは、南山大学で大学教員として教鞭をとられている太田和彦先生(南山大学/シリアスボードゲームジャム2022実行委員長)。
太田先生が実際に大学で担当している授業(「文明論概論」?)のなかで、実際に大学生たちに紹介している(!)という児童書をご紹介いただきました。
それは、「講談社の動く図鑑MOVE」シリーズの『WONDER MOVE 古代文明のふしぎ』
でした。
おそらく太田先生も「文明論概論」(?)という授業を担当してあらためて実感されたのだと思うのですが、各専門分野ごとに分化して研究が進みがち(=タコツボ化しがち)な研究分野において、その最新の知見を踏まえつつ、その全体像が見渡せる本ってなかなかないんですよね…。
そういう意味では、「まず全体像を知るための本として、児童書は秀逸!」という意見には、深く頷けます。
太田先生によれば、附属のDVDも(子どもにむけた使用としてクイズが多すぎるという欠点はあるものの)現代の文明論に対する全体像を知るための動画教材として有意義であるとのこと。『日立 世界フシギ発見』ファンだったわたしとしては、年末年始に観てみようかな、と思わずにいられません。
4. 鈴木伸一・岩間 史朗 『みかんのひみつ』
最後のバトラーは、朗読・読み聞かせ活動家の矢代貴司さん。
矢代さんには、横浜国立大学でも「小さな朗読会」を開催していただいたことがありました。
読み聞かせ・朗読活動家として、声をつうじて、人々と児童書・絵本との出会いを見てきた矢代さんが今回選んだのは、鈴木伸一・岩間史朗『みかんのひみつ』でした。
果実栽培にかかわる技術者のこだわりと、写真の表現性とのコラボレーションによって、視覚的にたくさんのことが語られている絵本。当日は、矢代さん自身の読み聞かせパフォーマンスもあり、絵本のなかで出会う「驚き」の瞬間を参加者とともに共有することができました。
現在、アーカイブ動画を編集し、登壇者の皆さんにご確認いただいているところです。後日このアーカイブ動画を公開する予定ですので、イベントに参加してくださったかたもそうでない方も、どうぞお楽しみになさってください。