kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

ワークショップ「『話すこと・聞くこと』の授業におけるインプロ・ゲームを教材とした実践」

2022年度から開催されている「明日をひらく言葉の学び交流会」の第3回として、神永裕昭先生(東京都足立区桜花小学校・教諭)によるインプロ・ゲームのワークショップ「『話すこと・聞くこと』の授業におけるインプロ・ゲームを教材とした実践」を開催しました。

会場の様子

※第3回 明日をひらく言葉の学び交流会 - 教育出版 研究会情報

神永先生とは、2018年秋に、全国大学国語教育学会でのラウンドテーブル「国語教育における即興的パフォーマンスとしての学習」でご一緒して以来、なかなかお会いする機会に恵まれず、4年ぶりの対面での再開となりました。

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お会いできなかった分、その期間に神永先生が探求されてきたことの蓄積が、どのようにご自身のインプロゲームの実践に反映されているのかを知りたい、と思う気持ちも募ります。

神永先生ご自身が小学校の現場で見出した「考えすぎずに失敗を怖れない態度や考え方」への問題意識とインプロ・ゲームによるアプローチ(神永裕昭(2020)「考えすぎずに失敗を怖れない態度や考え方とインプロの親和性の検討」)、

小中学校の国語科教科書に掲載されている教材としてのインプロ・ゲームに対する批判的検討(例えば、神永裕昭(2019)「インプロのゲームの構造から見たインプロ実践の意義」)を踏まえて、今、神永先生が国語科・「話すこと・聞くこと」の文脈において、どのようなアプローチをしようとしているのか。

そのことを体験的に、そして実感的に理解できる機会にもなるのではないか、と思い、期待をふくらませて、会場に向かいました。

この日のワークショップは、対面とオンラインを併用するかたちで実施したのですが、対面での参加者は17名、オンラインでワークショップに参加される方が6名、オンラインで聴講のみ参加の方が8名という状況でした。

 

はじめに「明日をひらく言葉の学び交流会」事務局長の山下先生からご挨拶をいただいたあと、神永先生より、「インプロヴィゼーション(improvisation)」という言葉についての説明があり、具体的なインプロゲームの体験が行われました。

当日のワークショップ・プログラム

今回、体験したインプロ・ゲームは、以下のとおり。

 

1.アイスブレイク

アイスブレイクとして、対面参加者にはまず、会場内を自由に歩きまわってもらいました(「スペーシング」)。一方、オンライン参加者はこのようなことができませんので、「十人十色」ゲーム を実施してみることにしました。

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「十人十色」ゲームは、単に、「他人の食べ物の好み」を予測するだけの簡単なゲームなので、説明はほとんど不要でした。オンラインで参加してくださっている6名の方のうち、1名に「お題」(例:「目玉焼きには何をかけるか」)を出し、三択のなかから自分の好みにもっとも近いものを選んでもらい、オンライン参加者全員にチャットで自分の予想を伝えてもらいました。

まったく知らない他人のはずなのに、なぜか、自分の予想があたったり、逆に答えるほうは、自分も予想しないような選択肢に人気が出たりして、「正解するはずはない」のに当たったり当たらなかったりすることを楽しむことで、オンライン参加者の間に話しやすい空気が作られていったように思います。

 

2.「ツードッツ(Two Dots)

2人で共同で絵を描いていくゲームです。

対面でもオンラインでもできるゲームなので、平行して、同じ活動を行っていきました。


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対面参加者・オンライン参加者ともに、「ツー・ドッツ」をプレイするのですが、対面参加者には、2人1組でゲームを実施してもらったのに対し、オンライン参加者は、参加者全員(5名)全員でゲームを実施しました。Jamboardを用いて、1人1本ずつ線を描いていって、絵を完成させました。

対面でもオンラインでもできる活動だったので、オンライン参加者もスムーズにこの活動を楽しむことができていたようです。

 

4.絵から即興で物語を書く

「ツー・ドッツ」(3.)で描かれた絵の人物に名前をつけて、そこから、2人で交互に1文ずつストーリ(の1文)を書き、書き言葉による即興的なストーリーづくりを行いました。

対面参加者・オンライン参加者ともに、同じ活動を平行して行っていきました。

オンライン参加者には、Zoomチャットに一文ずつ書いていってもらったのですが、ストーリーをぐんぐん進めていく参加者とそうでない参加者とが現れてきていて、それが面白く受け止められていたようでした。

 

5.「ワンワード(One Word)」

 

今度は、話し言葉での即興的なストーリーづくりにチャレンジ。今度は「1人1文」ではなく、「1人1文節」ずつ話していって、みんなで協力してひとつのストーリーを作り上げます。

ここでは、対面・オンラインともに、全員で1つのストーリーをつくっていく予定だったのですが、オンライン参加者から「2人でやってみたい」という声があり、オンラインチームは2人1組で「ワン・ワード」にチャレンジしました。

 

4.「サンキューゲーム」

以下の流れでゲームを行いました。

① 2人組で気をつけの姿勢で向き合い、片方がポーズを取り、もう片方が気をつけの姿勢に直して上げて、直してもらったほうが「サンキュー」とお礼を言う。これを交互に繰り返す。

② 片方がポーズをとったら、そのポーズに何か加える。加えてもらったほうが「サンキュー」とお礼を言う。これを交互に繰り返す。

③ 全体で輪になり、中央で数名がポーズをとる。名前をつける。

ここでは、対面参加者のみがが、「サンキューゲーム」を実際に体験し、オンライン参加者には、(オンライン)サンキュ―ゲームでどのようなことが起こっているのかを観察してもらい、気づいたことを、ゲームのあとで共有してもらいました。

 

5.「私は木です」(教育出版国語教科書・小5上掲載)


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3人で1組になり、アイデアを積み重ねていくゲームです。

対面参加者には、「私は木です」を実際に体験してもらいました。一方、オンライン参加者には、この前のゲームと同様、でどのようなことが起こっているのかを観察し、づいたことを、ゲームのあとに共有してもらいました。

 

リフレクション

すべての活動が終わったあとに、対面参加者・オンライン参加者まじえて、「今日のインプロ・ワークショップで経験したこと」に基づくリフレクションを行いました。

現場で国語科を担当する先生方が多く参加されたこともあって、国語科で学ぶこととのかかわりがひとつの議論の軸になりました。

議論のなかで見えてきたのは、インプロ・ゲームによる学びの実感と、現在、国語科で「話すこと・聞くこと」の指導事項として示されている内容との乖離です。

「話すこと・聞くこと」の学習として想定されている学習過程は、「話す」「聞く」「話し合う」内容の取材・構想にはじまり、その構成(あるいは、話し合い方)を検討し、実際に話す・聞く・話し合うといった活動を行うことになっているように見えます。その中ではどうしても、「うまくいくように」プランを立てること、そしてプランどおりにパフォーマンスすることに注意があたってしまいます。

一方、インプロゲームの経験のなかで生み出される実感としての学びは、プランニングに固執しようとする「個」としての自分をいったん離れ、「みんな」という集合のなかに自分をゆだねること、「みんな」の中で「個」としてはなしえなかった「どこか」に向かっていったり、「何か」を到達したりすることのようです。

「未知(いまだしらない)」どころか「非可知(知ることができない)」世界のなかで、今ある状況のなかで、今できうる最大のことを考えうるためには、「みんな」のなかで何かを考えたり、何かをなしとげたりすることは、「個」によるパフォーマンスと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なこと。

そのための「話すこと・聞くこと」について、現場の先生方とともに考える機会になりました。

ホワイトボードに書き記された内容