kimilab journal

Literacy, Culture and contemporary learning

学校だからできること/学校だからできないこと――横浜レインボーフェスタ2015「大学生ディスカッション」

前回の記事に引き続き、「横浜レインボーフェスタ LGBT2015」についてのレポートです。

(イベント全体の様子については、ハフィントンポストに掲載されていたこちらの記事などをご覧ください。)

 

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「横浜レインボーフェスタ」では、1日目と2日目に、大学のセクシュアルマイノリティー・サークルによる「大学生ディスカッション」が行われていました。

2日目の「大学生ディスカッション」については、毎日新聞にもとりあげられていて、どのような話題でディスカッションが行われたのかを知ることができます。

また、当日参加されていた文教大学セクシャルマイノリティサークル「のとまる」さんが、ご自身の活動ブログで記事もアップされています。

 

★毎日新聞- LGBTフェス:大学生がセクシャルマイノリティーの現状を討論 横浜

ameblo.jp

 

あまりご存じない方も多いかもしれませんが、現在、北海道から沖縄まで、日本各地の大学にセクシュアルマイノリティの当事者やその理解者・支援者(アライアンス)の学生たちが参加する公式・非公式のサークル・学生団体が存在しています。

matome.naver.jp

 

わたしが在籍していた大学にも、在学時すでに「サークルQ」というセクシュアルマイノリティ・サークルがありましたが、あらためて調べてみたら、さらにサークルが増えていました。

毎日新聞の記事では、中央大学「mimosa」のハルキさんが「すべてのメンバーの需要に応えるのは難しいのが正直なところ。最近は、各大学にセクマイサークルが二つあることも珍しくなくて、当事者だけのサークルと、LGBTを知ってもらうための発信系のサークルが二つあることがよくある」とコメントされています。

おそらく、そういう理由で、サークルが増えたのかもしれないですね。

セクシュアルマイノリティ」「LGBT」と一口でいっても、それは、「男/女という二分法的なジェンダー観+異性愛」を違和感なく受け入れている人たち以外をざっくりまとめて呼ぶための、かなり乱暴なカテゴリーに過ぎないわけです。

先日、ハフィントンポストで「『ズッキーニ』って何?LGBTだけじゃない12の性的志向まとめてみました。」という記事がアップされていましたが、このように示されると、「セクシュアルマイノリティ」とそうでない人びとの間にある、ゆるやかなセクシュアリティのグラデュエーションが見えてくるような気がします。

そのグラデュエーションの間のどこかに位置づく人たちが、「セクシュアルマイノリティ」と呼ばれているだけに過ぎないのですよね。

www.huffingtonpost.jp

 

また、自身のジェンダーセクシュアリティをオープンにしたい度合いも多様でしょうから、そもそも、セクシュアルマイノリティであるだけで、ひとつのサークルに入らざるを得ないということ自体、無理があるのでしょう。

それぞれのニーズや目的にあわせて、セクシュアルマイノリティ・サークルが分化したり、新たに作られていった結果、大学に複数セクシュアルマイノリティ・サークルが存在している現状は、とても自然なことだと思います。

 

2日目は、ディスカッションのテーマが「大学生のセクシャルマイノリティー、アライ(支援者)ができること」であったこともあり、このようなサークルの多様性と多様なニーズへの配慮、地域との連携のありかたなどが話し合われたようでした。

 

このように2日目のディスカッションについては、新聞記事などですでにレポートがアップされているので、こちらの記事では、1日目の「大学生ディスカッション」についてご紹介したいと思います。

 

1日目は、2つの「大学生ディスカッション」が行われました

www.yrf.jp

ひとつは、虹海 東海大学セクマイサークル × 慶応義塾大学LGBTサークル 三田会表に出れない方々の存在を理解しながらどのように表に出ている方と交わる事が出来るか?」

もうひとつは、東京学芸大学セクマイサークル TREC × LGBT Youth Japan「中学校や高校にセクマイ部があったら?外部のサポート方法とは」。

 

ディスカッションに出たすべてのテーマを詳しくご報告することはできないのですが、とくに印象に残ったトピックについてのみご報告します。

 

1.LGBT就職

昨日、東京都内でLGBTに働きやすい職場についての会議が開催されたことを、NHKニュースが報じていました。記事によると「LGBTの人たちを支援する企業やNPOなどで作る団体が開いたもので、100を超える企業の人事担当者など、およそ400人が参加」していたそうです。

www.nhk.or.jp

今後、「LGBTの啓発に取り組む企業のランキング」を独自に公開していく予定もあるということで、(ランキングにする必要はあるのか?・・・という疑問は残りつつ)少なくとも、就職活動を考えるLGBTの人たちにとって、LGBTフレンドリーな企業が可視化されることは、就職のためのハードルを下げるきっかけになるように思います。

 

虹海×三田会「表に出れない方々の存在を理解しながらどのように表に出ている方と交わる事が出来るか?」のなかで、はじめに議論されたのも、LGBT就職に関する問題でした。

参加した学生たち自身の就職活動での経験が語られました。ある学生からは、マスコミ関連の企業の面接で自分自身がゲイであることをカミングアウトしたところ、「(LGBT当事者であることを)もっと出していってほしい」という趣旨のコメントをされたという経験談が語られる一方、ほかの学生からは、それとは異なる経験談が語られました。とある行政関係の就職面接で、自分自身が参加しているセクシュアルマイノリティ・サークルについて、「それはどのような活動をする団体なのか?」などと質問され、うまくその場で答えを返すことができなかったというエピソード。

 

セクシュアルマイノリティ・サークルに入っていることは、けして引け目を感じるようなことではないと思うのですが、LGBTに関して理解のある人々や団体が増えつつある一方で、LGBTに対して嫌悪感を抱いたり、差別的な価値観を持つ人々・団体が存在することも事実。

今年5月に掲載された、産経新聞の「LGBT就職差別」に関する記事では、ある東京都内の学生が、大学のキャリアセンターの職員に「カミングアウトして、日本企業に就職するのは難しいのでは」と言われたというエピソードも報告されています。

www.sankei.com

このような状況のなか、権力的に非対称にならざるを得ない就職面接の場で、「セクシュアルマイノリティ・サークルとは、どのような活動をする団体なのか?」と尋ねられて、答えに窮してしまったという事態はとてもよく理解できます。

就職活動ではよく、応募先の企業の目的やニーズにあわせて、自分自身について語るようにと言われますが、その目的やニーズのなかに、LGBTの存在が位置付いているかまったくわからない――むしろLGBTに対して否定的である可能性すら高い――場合、応募者である学生たちは、自分にウソをつき、自分を隠すことしかできません。

それは、企業にとっても、応募者である学生にとっても、不幸なことでしかないのではないでしょうか。

 

2.教科書とLGBT

1日目に行われたふたつの「大学生ディスカッション」で、共通して話題となったテーマが、教科書でした。

現在、学習指導要領の改訂に向けた議論がはじまったこともあり、また、学習指導要領改訂に向けて、「Change.org」で、セクシュアル・マイノリティの子どもたちに配慮した教科書づくりを求める署名運動が行われていることもあり・・・、さらにいえば、大学生たち自身が、配慮のない教科書に傷ついた当事者だったわけですから、みんなにとってホットな話題だったのかもしれません。

 

★「教科書の中に私はいない 「多様な性」想定を(神奈川新聞)-カナコロ

★「私はここに~性的マイノリティの今(3) 「いない」が前提の教室」-静岡新聞こち女ニュース

★「「保健体育の教科書」で性的少数者は扱われているか?」-日刊SPA!

 

ディスカッションの中では、上記の記事などで問題とされている保健体育科における記述はもちろんのこと、社会科(公民科)、国語科、教科科が予定されている道徳科などでも、セクシュアルマイノリティへの配慮が求められるべきではないか、という意見がありました。

わたしが専門(?)にしている国語科も挙げられていたので、頑張りたいと思います!・・・ので、国語科の教科書でどういう配慮がなされるべきと考えておられるのか、もう少し具体的に知りたかったです。

 

3.「セクマイ団体」は学内?学外?

TREC×LGBT Youth Japan「中学校や高校にセクマイ部があったら?外部のサポート方法とは」では、タイトルどおり、中学・高校におけるセクシュアル・マイノリティ支援団体(部活・サークルなど)のありかたについて、議論が行われました。

TRECのメンバーが、高校時代に学校内に「セクマイ部」を設立しようとしたときのエピソードからはじまり、LGBT Youth Japanによる海外のLGBTフレンドリーな高校および学外支援団体の視察報告が行われたのち、中学生・高校生への支援のありかたについて議論されるという流れでした。

 

高校時代に「セクマイ部」を設立しようとした際のエピソードは、非常に興味深いものでした。エピソードをお話してくれた方によると、「セクマイ部」を設立しようと学内の教員に顧問を依頼しようとしたところ、「それって『出会い系』じゃないの?」と言われたとのこと。

ちょうど、大学でのセクシュアルマイノリティ・サークル設立に関わって、同じようなエピソードを聞いたばかりだったこともあり、いろいろなところで同じような問題が起きていることを実感してしまいました。

ちなみに私が聞いたエピソードは、大学にアライとしての活動を「学外活動」として認めてもらえないかと相談にいった際、対応した職員の方から「それって宗教と何が違うの?」と言われたというエピソード。

・・・このエピソードを聞いたときには、「どのあたりが、宗教と同じなんですか?」と逆に聞いてみたくなりました。

もしかしたら、日本の大学では、新興宗教やとラディカルな政治団体が学内にサークルをつくって(あるいは連携して)、学生が被害に遭ってしまう・・・という事件があったり、元大学公認でもあったイベント・サークル「スーパーフリー」による「スーパーフリー事件」の禍根を引きずっていたり(たぶん)するので、いろいろ過敏になっているところはあるんでしょうね。高校での部活ともなればなおさら、危機感を感じられてしまうのかもしれません。

とはいえ、「それって『出会い系』じゃないの?」という高校教師の発言の根底には、「府中青年の家事件」で問題とされたような偏見があるように思われてなりません。

 

ディスカッションの中では、中学・高校の学校内に団体があることによるメリットもあるものの、やはり、デメリットのほうが大きいのではないか、という話になりました。中学生・高校生であればこそ、他の生徒たちから「いじめ」られることの不安、学校生活を安心して送れなくなるのではないか、という心配が生じる可能性が大きい。そうであるからこそ、学外の団体がサポートしていくことの意義があるのではないか、という議論へと発展していきました。

TRECでは実際に、大学生と中学生・高校生とがセクシュアル・マイノリティや性の多様性について話し合う「放課後にじいろクラブ」という活動を実施されてきたとのことでした。

tgraedci.blog.fc2.com

 

3.LGBTフレンドリーな学校へ

 LGBT Youth Japan の方からは、2013年、2014年に実施してきた「LGBTスタディツアーinNY」での海外視察をもとに、LGBTフレンドリーな高校「Harvey Milk High School」LGBTの高校生たちをサポートする学外団体などについての紹介がありました。

また最後に、LGBTフレンドリーな大学をつくる取り組みとして、現在、早稲田大学で行われている「ダイバーシティ早稲田」の取り組みについても紹介がありました。

ダイバーシティ早稲田」では、現在、早稲田大学内に「LGBT学生センター」を創設することを目指した活動が行われており、高校生たちにLGBTの視点から大学を案内するキャンパス・ツアー企画などを考えていらっしゃるとのことでした。
 
あらためて調べてみたところ、「LGBT学生センター」の提案は"Waseda Vision 150 student Competition"という学生コンペで「総長賞」を受賞されていることを知りました。すごい!
 
 
以上、「大学生ディスカッション」1日目のレポートでございました。
わたしは、2日目には参加できなかったのですが、1日目に参加するだけでもとても勉強になりましたし、たくさんの考える種をいただきました。
 
そして、遅ればせながら、私が現在つとめている横浜国立大学でも、まだ非公認ではありますが、セクシュアル・マイノリティ&アライのためのサークルができました。
数日前から、ツイッターも始動しているようです。
 
 
自分のいる場所から、できることを少しずつはじめていきたいです。