4回だけ会えた、学生たちとの授業のこと
今年度、1年間だけ、お引き受けしていた非常勤講師先の大学での授業が終わる。
夜遅くに開講される受講者7-8人の小さな授業。
春学期はすべてオンラインだったので学生たちに会うことすらかなわなかったけれど、後期は少しだけ、学生たちに会うことができた。
年明けに予定されていた対面授業は、緊急事態宣言発令の影響で、急遽、オンラインに変更になり、5回予定されていた対面授業は、4回に減ってしまった。たった4回だけ、だったけれども、それでも、その時間は、とてもかけがえなかった。
4回だけの「会える」時間によって、そのほかの10回以上の時間の意味が本当に大きくかわった。
最終回の授業は、学生たちに、同じ授業を受けているメンバーにおすすめしたい本を紹介しあう「ビブリオバトル」。
「チャンプ本」を獲得したのは、糸井重里『思えば、孤独は美しい』。
なんだか、いろいろこの1年間のことを考えさせられた。
オンライン授業の後、ミーティングルームを退出する学生たちを見送っていたら、最後にひとりの学生が残って、
「実は、途中から、教員になるのは辞めようと思ったんだけど、この授業で、みんなといろいろ話したりするのが楽しくて、授業だけは受けちゃいました」といってくれる。
その学生がわざわざ残ってそれを言ってくれた主たるねらいは、「期末レポートを出さなくてもいいか」と質問をするためだったのだけど、それでも、すごくうれしかった。
わたしたちの時間は、たしかに、そこにあったのだ。
大学内イベントとしてオンライン上映会を開催する~YNUプライド2020「カランコエの花」ZOOM上映会
2020年6月10日に、横浜国立大学・長谷部学長(学長でもあり、ダイバーシティ戦略推進本部長でもある)が「プライド月間 学長メッセージ」(PDF)を公開しました。
「6月は、LGBTQIA等、性的少数者の人権を尊重し、社会の中の多様性を考えるプライド月間です」という文言から始まり、「アンコンシャス・バイアス」の問題が広く存在することへの認識を示したメッセージです。
この「プライド月間 学長メッセージ」の公開にともない、ダイバーシティ戦略推進本部のある先生から、ぜひ「プライド月間(=6月)」に、本学の取り組みの第一歩となるようなイベントを開催したい、という相談を受けました。
とはいえ、世の中は、新型コロナウイルス感染予防のため「三密」回避が求められている状況。横浜国立大学も、7月2日からは入構規制緩和が行われたものの、春学期中の授業はすべて遠隔講義、さらに6月中は入構規制も厳しい状況で、会議などで教職員で集まることすらほぼ不可能という状況でした。
そのため、「なにか、遠隔(オンライン)でできることを」という条件も加わり、わたしが提案したのが、オンライン映画上映会でした。
本上映会開催されたのは、6月25日でしたが、その後、参加してくださった教職員の方などから、「どのようにオンライン映画会を開催したのか、知りたい」というご要望もいただきましたので、今回、どのような手続きや準備を行ったのか、について簡単にまとめておきたいと思います。
1.図書館が購入した映画DVDの上映を考える→実現せず
まず、横浜国立大学図書館で所蔵している映画DVDの上映を考えました。
横浜国立大学図書館に『ハーヴェイ・ミルク』や『ハッシュ!』のDVDが所蔵されていることを知っていたこともあり、これらを上映することができるなら、それが一番ハードルが低いと考えました。
今回の上映会は、教職員・学生の研修を目的に、非営利・無料で行われることは決まっていたため、著作権法第38条(営利を目的としない上演等)第1項が適用可能なのではないか、と考えたのです。
図書館が購入した映画ビデオの上映会を図書館の会議室で開催するには、権利者の許諾が必要でしょうか。 | Copyright Q&A 著作権なるほど質問箱
…が、「公表された著作物を上演・演奏・上映・口述することができる」とはあるものの、オンライン上映会は「公衆送信」に当たってしまうため、これは適用できないのではないか、ということで、実現されませんでした。
2.自主上映会としてのオンライン上映会の可能性を探る
そうなると、公衆送信による「自主上映会」を開催する、という条件をきちんと説明したうえで、上映をお認めいただける配給会社などを探すしかありません。
折しも、cinemo by United Peopleが「Zoomでのオンライン上映会の開催方法」をホームページ上で公開していましたので、cinemoが提供している映画であれば、比較的、オンライン上映会開催へのハードルも低くできそうだ、と思いました。
…というわけで、次に候補にあがったのが、『ジェンダー・マリアージュ』。
その他、UPLINKの「自主上映のご案内」を見たり、合同会社東風のサイトを見たり、いろいろとリサーチはしました。
今回は実現できなかったけど、東風では『恋とボルバキア』が提供されていることがわかったので、ぜったいいつか、上映会を実現したい…!という思いが高まりました。
そのようなかたちで、いくつか候補を挙げ、主催者である部局の先生方にお伺いしたところ、今回は、学校を舞台にした作品である『カランコエの花』を上映したい、というお話になり、『カランコエの花』を上映することに。
3.「カランコエの花」HPから上映の連絡をとる
『カランコエの花』は、トップページのいちばん最後に「お問い合わせフォーム」があり、そこに親切にもわざわざ…
「映画「カランコエの花」に関するお問い合わせフォームです。劇場での上映の他、学校・企業・自治体などの非劇場での上映も承っております。」
…と記載されていたので、安心して連絡をとることができました。
「お問合せ内容」の「上映について」にチェックをしてら連絡をとると、すぐに、上映に関するご案内をいただくことができます。*1
4.オンライン上映会開催に向けて(マニュアル・参加登録)
このとき、「オンライン上映会をどのようなかたちで実施するのか」、参加者数のカウントや、参加者以外が上映作品を閲覧していないということの確認方法について尋ねられたため、このときは、「cinemoがオンライン上で公開している『Zoomオンライン上映会開催マニュアル』(PDF)にしたがう」という回答をしました。
ただし、このマニュアルでは、「人数カウントのため「登録」を「必須」に」という方法が推奨されているのですが、横浜国立大学でのZoom利用におけるセキュリティポリシーの中で、「Zoom利用時、(個人情報保護のため)学生には、氏名表示をさせない」というルールがあったため、このルールを適用しての開催はできない、ということが判明。
そのため、以下のように事前参加登録を行うかたちで、参加者を確認することにしました。
(1) 参加希望者(教職員・学生とも)に、上映会開催日前日までに、オンライン・フォームから参加登録を行ってもらう(大学公式メールアドレスからのみ参加申込可とし、氏名・連絡先メールアドレス等を記載)
(2) 上映会当日午前中までに、「参加者ID」を配布
(3) 上映会参加時には、Zoomにサインインする際に、「氏名」欄に「参加者ID」or「参加登録氏名」を記載する
…なお、参加者数が30名を超えたため、ひとりひとりに「参加者ID」を記載したメールをお送りすることが難しい、ということになり、①学生のみに、1人1人「参加者ID」を付与し、1人1人にメールを送付することとし、②教職員には「参加者ID」ルール(例:「YNUpride+(採用年4桁)」)のみをお知らせすることにしました。
当日、これで参加登録者の確認を行っていたのですが、どうも、Zoomでの「氏名表示」の変更の仕方がわからない方がたがいらっしゃったらしく、部署名(?)で何度も「待合室」に入ってこられる方がいらっしゃいました。
オンライン上映会に限らないことだとは思いますが、事前に、以下のことをお願いしておくことは必要なことだと思います。
①Zoomのアプリをダウンロードすること(ウェブ・ブラウザ―からでは適正な品質で映像が見られません。かなり映像・音声が乱れるようです)
②Zoomを最新版にアップデートしておくこと(時間ギリギリに入ろうとしたときに限って、突然、アップデートが始まったりします
③不安な人には、「氏名表示」の変更、マイク・カメラOFFの設定を練習しておいてもらう
④有線LANに接続できる環境で参加することを、推奨する
5.当日の運営
当日の運営については、ほぼ、『Zoomオンライン上映会開催マニュアル』(PDF)に記載されているとおりの設定をすれば、問題なくできそうでした。
① ミーティング作成時に、「入室時に参加者をミュートにする」をチェック
② 画面共有を「ホスト」のみ「可」にする
③ チャットを「OFF」にする
また、「当日の運営」ということではないですが、オンライン上映会の場合、通信できる画像の品質に限りがあるので、「Bru-lay」ではなく、「DVD」を使用したほうが良いと思います。…というか、どちらでもOKなのですが、「Bru-lay」に対応しようとして高画質送信できる設定にすると、トラブルが発生する参加者が出てくる可能性が高そうでした。
以上です。
参加者数が40名未満と少数であったからかもしれませんが、大きなトラブルもなく、無事にオンライン上映会を終えることができました。
おそらく今後も、なかなか、集まってなにかを開催するということが難しい状況は継続するように思います。
そのような時代において、なにか研修会などを開催したい、というときのひとつのアイデアとして「オンライン上映会」という選択肢があることを、お伝えしたいと思い、この記事を書きました。どこかで、だれかの、何かの参考になればうれしいです。
*1:残念ながらわたしは、入力するメールアドレスを間違えるという大失態を犯してしまったため、連絡がとれるまでにものすごく時間がかかりました…本当に申し訳ない…
遠隔オンライン講義での聴覚障害の学生への対応について、自分ができることを考える
新型コロナウイルス感染予防のため、日本中の大学で、遠隔講義(オンライン講義)への対応が求められています。
わたしの勤務先である横浜国立大学でも、4/8に「授業開始に向けたPC等事前準備のお願い」(PDF)が示され、授業は、Office365 Teams、授業支援システム、Zoomの組み合わせで行うという方針が示されました。
このようなことを、Twitterで報告したところ即座に、次のようなツッコミが入りました。
単純に疑問なんですけど、この場合の情報保障や、発話が難しい学生などの対応ってどうなるんですかね…?— そう (@sojumpso) 2020年4月8日
この問題については、4/21の時点ですでに、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)が、遠隔講義における情報保障支援についての特設ページを公開してくださっています。
【オンライン授業における支援】日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークでは、多くの大学がオンライン授業を導入している状況を受け、聴覚障害学生が参加する際の情報保障支援について情報発信のページを新設しました。ぜひご覧ください。情報は随時更新していきます。https://t.co/0ifFG4CkPF— 【公式】PEPNet-Japan (@PEPNet_Japan) 2020年4月21日
遠隔授業での情報支援について具体的な方法が提示されているし、それぞれに、かなり見やすいマニュアルもあるので、このページを見ておけばばっちり!とは思っているのですが、一方で、これだけ情報が並んでいると、何から見ていいかわからない、という人も多いと思います。
そこで、まったく専門家ではないわたしが、これまで、毎年1~2人ずつくらい、授業で聴覚に障害のある学生たちを受け入れてきた経験から、今、遠隔授業(オンライン授業)への対応として考えていることを、書いておこうと思います。
1.オンデマンド型(課題配信型)授業
「遠隔授業(オンライン授業)」といっても、学生のネットワーク環境の限界、大学側が提供できるサーバー容量の限界から、結局は、オンデマンド型(課題配信型)の授業が多くなるのではないか、と予想しています。
オンデマンド型(課題配信型)で提供される資料としては、以下の3種類が考えられます。
①文字資料(レジュメ、配布資料化されたスライドなど)
②音声資料(講義内容が録音されたものなど)
③動画資料(パワーポイントのプレゼンテーションを動画化したもの、講義録画など)
このうち、聴覚障害をもつ学生への対応が必要なのは、②音声資料と③動画資料ですね。このそれぞれについて、わたしは次のように対応することを考えています。
1.1. 音声資料:Google Documentの音声入力で文字化テキスト作成
音声のみで教材を提供する場合、その音声を文字化した「読み上げ原稿」を用意することが必要です。
さきほどご紹介したPPAP-Netの「授業担当者へのお願い」でも、依頼項目のひとつに「読み上げ原稿やレジュメなどの提供(字幕挿入や情報保障で十分対応できない場合も文字起こしがあれば最低限のサポートとなります)」があります。音声のみで授業資料を提供しようとするのであれば、なおさら「読み上げ原稿」が必要です!
「読み上げ原稿」は、Google Documentの「音声入力」あるいは、Microsoft Officeの「ディクテーション」を使って、けっこう簡単に作成することができます。
Google Documentでの音声の入力の仕方については、こちらの記事などが参考になるかもしれません。(無料で音声入力ができる「Google音声入力」の使い方【超便利】)
すでに、Google Documentを利用している方であれば、すぐにでもできます。
「ツール」タブをひらいていただき、マイクが標準装備されているパソコンであれば、そのまま、そうでない場合には、マイクをPCに接続して、「音声入力」をクリックします。
「音声入力」をクリックしたら、そのまま講義内容を話していきます。
おそらく、音声のみで教材資料を配信される方は、Windows10に標準装備されている「ボイスレコーダー」を使ったり、あるいは、ICレコーダーやスマホの「ボイスレコーダー」機能を使って、講義内容を録音される方が多いと思います。
それらに音声を入力するときに、Google Documentをひらき、ボイスレコーダーの「録音」ボタンを押す直前のタイミングで「音声入力」ボタンを押せばOKです。
以下は、わたしが、Google Documentの音声入力を使って入力をしてみた結果です。
「こんにちは。これから初等国語科教育法(しょとうこくごかきょういくほう)の授業(じゅぎょう)をはじめます。わたしはこの授業(じゅぎょう)を担当(たんとう)するイシダキミです」と言った直後に、プリントスクリーンで画面をキャプチャしたところ、このような感じでした。
タイムラグも少なく、文字変換もかなり精度が高いこと実感していただけるかと思います。
同じようなことは、Mirosoft Office 「ディクテーション」機能を用いて行うこともできます。これは、Microsoft Office365の「Word」の「ディクテーション」を使って、音声による文字入力をしているところです。
やってみた感じとしては、Google Documentの「音声入力」より、文字化がはじまるタイミングが少し遅いかな、というところ。
「ディクテーション」ボタンを押してから、数秒間まって、話し始めたほうがよさそうです。文字化の制度としては、ゆっくり話せば、Google Documentと大差ないですが、わたしみたいに話すスピードが速い人間にとっては、Google Documentのほうがよさそう、という印象を持ちました。
こんな話をしていたところ、hinata yoshikazu先生より、“グーグルドキュメントの音声入力機能では、改行が自動で入らないのでは?UDトークだと、一定時間で、自動で改行が入りますよね"(大意)と教えていただきました
「UDトーク」とは、App StoreおよびGoogle Playの送付で無料提供されている会話の見える化・コミュニケーション支援アプリのこと。
★ UDトーク | コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ
たしかに、「UDトーク」を使うと、こんな感じで自動的に改行が入りますし、ふりがなもつく。そのままテキストとしてダウンロードもされるので、とても見やすいです。
ただわたしの話すスピードがおかしいのか、発音が悪いのか…わたしにとっては文字化の精度がGoogle Documentと比べるとちょっと…というところがあり、うまく使い分けていく必要がありそうです。
1.2. 動画資料:Microsoft Stream, Youtubeを使った字幕付与
動画資料の場合には、動画に字幕をつけることが推奨されています。
わたしの場合、Microsoft Office365が利用できますので、学内限定で公開する授業動画であれば、Streamの機能を使って動画をアップロードするというやり方で十分でした*1
この場合、やるべきことは非常に簡単で、動画をアップするときに、①動画の言語を「日本語」に設定(画像左下側)したうえで、②「オプション」内「キャプション」の設定にある「字幕ファイルの自動生成」をチェックするだけです。
初期設定のままであれば、動画が完全にアップロードされると、メール通知が届く仕組みになってます。
メール通知が届いたあとに、アップロードされた動画を見ると…
こんな感じで、「字幕」がつきます。
「いしだきみ」が「意志だけに」になっているあたり、固有名はもっとクリアに発音しないとダメなのかも…と思ったりしますが、それを除けばすばらしい精度で文字化が行われているように思います。
なお、わたしはStreamが使用できることがわかったので、まだ試していないのですが、そのような状況にない場合、Youtube Studioを使用して字幕を自動生成できます。
PEP-Netで公開されているこちらのマニュアル『YouTubeでの字幕作成⽅法』(PDF)が、とても見やすくわかりやすいので、こちらのマニュアルにしたがって、字幕をつけるのが良いのではないかと思います。(「非公開」設定とはいえ、Youtubeで動画を公開すべきではないという、方針の大学もあろうかとは思いますが)
2.リアルタイム動画配信(同時双方向型)授業
リアルタイム動画配信による動画双方向型授業といえば、ZoomやMicrosoft Teams, Google meetあたりの利用が検討されているようです。
とはいえ、そのなかでも学生への連絡のたやすさ、必要とする準備の少なさという視点から、Zoomを利用することを検討される方が多いのではないでしょうか。
Zoomでの「字幕」のつけかたについても、PPAP-Netでとても見やすくわかりやすいマニュアル「Zoomの字幕機能を用いた文字情報の提示」(PDF)が公開されており、授業者が自分で「字幕」を付与する場合も、情報保障者(ノートテイク・ボランティアなど)に「字幕」入力を依頼する場合も、このマニュアルだけを見れば、何をすればよいかがすぐにわかります。
わたし自身も、Zoomを使用する場合には、自分が打ち込むか、どなたかにボランティアをお願いして「チャット」か「字幕」で情報保障をしようかな…と考えていました。
が、そんなことを考えていたところ、Google Documentの「共有」機能を使えば、だれかが「字幕」や「チャット」を打ち込まなくても、相手にリアルタイムで、音声の文字化を届けられることを知りました。
この記事の場合は、インタビューなので、双方が「音声入力」をONにしておくことが必要ですが、ZOOMで講義を配信する場合には、基本的には、講義する者だけが「音声入力」をONにしておけばよさそう。
ゼミなどでのディスカッションの場合には、発言するときに「音声入力」をONにするということを徹底したり、はじめから全員で「音声入力」ONにしておくということで、問題がクリアできそうです。(まだやってみていないので、可能性として、ですが)
*1:学内の事情により、その後この方法にはいろいろな問題があることもわかったのですが、結局はStreamを利用することになったので、割愛。詳細はこちらのtogetterまとめを見てお察しください。
「物語を旅しよう」のサンプル・シナリオが公開されました
2019年の年度末に、遊学芸・保田琳さんにお願いして、TPRG型物語創作教材『物語の世界を旅しよう』をご制作いただきました。その制作の経緯などについては、以前、このブログの記事でもご紹介しておりますので、ぜひこちらをご覧いただければと思います。
このたび、ふたたび、保田さんのお力で『物語を旅しよう』のサンプル・シナリオを、横浜国立大学リポジトリにて、公開できることになりました。
昨年度『物語を旅しよう』を公開してから、「TRPGやゲームに対する理解がない者には、ハードルが高い」、「高校の物語創作の授業で使ってみたいが、ファンタジー設定だと、高校生には幼すぎる」というような声をいただきました。
「ハードルが高い」という声に対する回答としては不十分かもしれませんが、今、できうる対応のひとつとして、いくつかのヴァリエーションのシナリオを示すことにした、という次第です。
「物語を旅しよう」サンプルシナリオ- YNUリポジトリ
私自身は、小学校・国語科のフィールドで仕事をしていますの、「子どもたちの読書経験を豊かにしたい」「今までに自分たちが読書などで触れてきた物語の世界を遊ぶことを楽しんでほしい」という思いから、保田さんには、世界の昔話・童話をモチーフとした2つのシナリオを考えていただきました。
①「ハートのない銅像」(オスカー・ワイルド『幸福な王子』をモチーフにしたシナリオ)
『幸福な王子』作:オスカー・ワイルド(語り:日色ともゑ)-おはなしのくに/NHK for School
②「不思議の国の旅人」(ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』をモチーフにしたシナリオ)
【絵本】 不思議の国のアリス 前編【読み聞かせ】 アリスインワンダーランド
また、「ハードルが高い」という声におこたえして、もともとのマニュアル・ルールブックに掲載されていたモデル・シナリオよりもシンプルなバージョンとして、③「父の形見と子ども心」を考えていただきました。
こちらは、シンプルな、「探し物をして、届ける」というクエストなので、「どこからはじめていいかわからない」という人や、それまでに知っている昔話・童話がほとんどない子どもたちへのサンプルとして、使いやすいのではないかと思います。
そして、「高校生には、幼すぎる」という声にお応えして、このたび、常磐大学ゲーミフィケーション研究会会長に、原案をご作成いただき、エグみのある高校生・大学生向け長編シナリオ④「良心と豊かさの間で」も公開しました。
さらに、遊学芸・保田さんには、この長編シナリオのために作成された「長編用ワークシート」も作成していただき、こちらも同時公開しておりますので、「高校生や大学生に向けてやってみたいのだが…」というご要望には、少し、おこたえできたのかな、と思っています。
小学生向けに作ったはずの『物語を旅しよう』から、こんなシナリオが生まれるとは思っておらず、個人的にはちょっとびっくりしております…。
そして、いつの間にか、YNUリポジトリの表示画面が変わっていて、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」も一緒に表示されていることに気づきました。
昨年度、『物語を旅しよう』を公開したときも、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」と文化庁の「自由利用マーク」をつけていたのですが、たしかそのときは、このようなかたちで検索結果画面に表示されていたことはなかったと思います。
「オープンサイエンス」「オープンアクセス」への議論が進展する中で、大学のリポジトリもこのような対応をするようになっていることは、素直に喜ばしいです。
ぜひ、これを機に、また『物語を旅しよう』を使って、遊んでくださる方が増えるといいな!と思っています。
私としても、次年度、教員志望の学生たちや現職の先生方に、『物語を旅しよう』を実際に体験していただける機会を増やしていきたいと思っています。
国際子ども図書館「絵本に見るアートの100年」展
昨日1日お休みをいただけたので、国立国会図書館国際子ども図書館で1/19まで開催していた「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」展に、すべりこんできました。
今年度から、横浜国立大学附属横浜小学校でいっしょに授業のお話などをさせていただいてる先生が、「絵本を読むこと」に関心を持たれていて、「絵本にかかれている絵を見ること/読むこと」に着目した授業開発をされているので、わたしも先生とお話をしながら、絵本の中の「絵」について考えることが増えました。
今週、1/25(土)に開催される横浜国立大学附属横浜小学校での研究発表会でも、「みんなでよもう! えほんのせかいへ!」という授業名で、絵本の絵と言葉とを関連させて読むことの授業を行う予定だということで(附属横浜小学校研究発表会のご案内はこちら→PDF)、絵本のなかの絵についてもっと知っておきたいなぁ…!と思っていたところだったのでした。
「絵本に見るアートの100年」展では、「ダダ」、「シュルレアリスムの系譜」「ロシア・アヴァンギャルド」「チェコ・アヴァンギャルド」「バウハウスとニュー・バウハウス」「グラフィック・デザインの可能性」「日本のモダニズム」「第二次世界大戦後の美術の展開」という流れで、絵本にみる近現代美術史が紹介されていきます。
展示されている作品を見ていると、たしかに、近現代のアートの展開がわかる!と同時に、絵本というメディアがいかに、アートやデザインの実験場であったのかがわかり、非常に興味深かったです。
展覧会で紹介されていた絵本を、一部、ここで紹介したいと思います。
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言葉の教育の研究者として授業研究に関わる~石川晋『学校とゆるやかに伴走すること』
先週末、ようやく、教員免許更新講習も終わり、ようやく「万が一、倒れてしまってもどうにかなる」というくらいの予定になってきたので、本棚に入ったまま、開くことすらできずにいた、石川晋(2019)『学校とゆるやかに伴走するということ』(フェミックス)を読みました。
11月上旬に、永田台小学校の公開授業研究会で、石川先生ご自身にお会いした際、なんと本書をご恵投いただくという僥倖に恵まれました。それなのに、今の今まで開けずにいたというのは、なんともお恥ずかしい。
でも、それには、理由があります。
その理由は、わたし自身が、これまで、相当ひどいかたちで、教師教育の現場に関わってきており、自分には、教師教育について語る資格どころか、考える資格すらないのではないか、と思うことがしばしばだからです。
わたしが、現在の職場に着任して、いくつかの学校の研究協議会に「外部講師」として伺う機会がありましたが、スタートからわずか1年くらいの間に、心理的な病をかかえ、現場を離れざるを得なくなる先生が複数いらっしゃいました。
わたしが「外部講師」としてうかがった公開授業終了後、間もなく、倒れられる先生もいらっしゃいました。
その場に関わる教師たちの学習・発達のための授業研究会や校内研修が、その本来のねらいとはまったく逆に、教師たちにストレスとプレッシャーだけを与え、心理的な病まで引き起こしてしまっている。
それが、わたし自身の「教師教育」に関わる経験のスタートでした。そのため、今でも自分は「教師教育」に関わる資格はないと思っていますし、今の仕事を辞めるべきではないかと思い悩んでばかりです。
そのような状況にあるわたしにとって、本書を読むことは、かなりしんどいに違いない……立ち直れなくなってしまうかもしれない。そんな不安を抱えながら、本書を開きました。
案の定(?)と言ったらよいのでしょうか。本書の中にあった、次のような記述を読み、読後、かなり落ち込みました。
とはいえ、これは実はなかなか難しいことでもあるのです。というのは従来校内研修は、教科教育=授業づくりベースなので、校内の先生方ご自身も教科の専門性を高めるという学び方以外の学び方があることに(経験がないので)関心が向けられません。また外部から招聘する講師も、教科の専門性が高い方になりますが、こうした専門性の高い方が、場づくりに精通しているとはいえないことがほとんどです。従って、よかれと思ってこんこんと教科の難しい話をねじ込んでいき、校内研修の場が冷え切ってしまうというようなことが起こります。(石川晋, 2019, p.127)
まさに、わたしのように、「外部講師」で呼ばれる人間のことです。
このようなことを言うと、「開き直っている場合か!」と批判されると思います。その批判はごもっともです。わたし自身も、常に、自分に対してそのような批判を向けています。ですので、いつも「授業研究会の講師に招聘しないでほしい」と公言しています。
それでも立場上行かざるを得ないので、「今、ここで自分にできることもあるかもしれない」とわずかな希望をもって、授業が行われている現場に身を置いてみることにしています。そして、自分がその場に身を置くことで感じたことを、できるだけ言葉にしてみることにしています。
全体に目くばりして、場づくりをする(!)なんて、そんなすごいことはまったくできそうになく、自分の身をそこに置くことしか、自分にはできないのです。
だから、とにもかくにもそこから初めてみよう…と、ようやく思いはじめたのが、つい2年前くらいのことです。
そのようなかたちで考えなおして、自分なりのかかわり方を見出そうとしていた時期に、渡辺貴裕先生(東京学芸大学)が、全国大学国語教育学会第134回大阪大会で、公開講座「学校で取り組む国語科授業研究の展開② ~学校・教育委員会・大学など異なる立場からのかかわりを活かして」(PDF)をコーディネートされることになり、その場に「コメンテーター」として招聘していただくという機会を設けていただきました。
この公開講座では、学校の管理職・教育委員会の指導主事・教育方法学の研究者それぞれの立場から見た授業研究の実践報告がなされました。わたしの役割は、それぞれの実践報告から見出される共通の知見を「コメンテーター」という立場でまとめ、国語科教育学の理論や自分自身の経験を踏まえがら、「教科教育の研究者は、授業研究に何ができるのか?」をお話しすること。
この機会をいただけたことで、枯れ果てた荒野にようやく小さく芽吹いてきた「何か」に、自分自身で言葉を与えられたことは、わたしにとって、本当に大きなことでした。
そのときに、お伝えできたことも、結局は、「言葉の学習が行われている現場に、自分の身体を置いてみること、そこで見えたことを、国語科教育にかかわる種々の理論や言葉を支えにしながら、言語化すること」というに尽きるので、「だから、なんだ」と言われそうですが、それでも、やっぱりそれしかできないと思うのです。
それでも、何か言葉にしてみることで、そして同じ現場を見ていた人たちと言葉を重ね合わせながら、みんなで一緒に、今ここで見たものについての言葉を創造していくことで、世界は変わっていくのだと思います。
言葉によって、私たちの世界が見せる相貌はまったく変わってくる。
だからこそ、その言葉の力を信じて、みんなが幸せになれる言葉を生み出していくことに賭けてみる。
その公開講座から、もう2年近くが経ち、来年上旬あたりにはそろそろ公開講座のオンライン・ブックレットが発行されるのではないかと思える時期にもなりましたが、やはり、「国語科教育研究者の立場から」、授業研究にかかわる意義を述べよ、と言われたらそう答えるしかない、という思いは変わっていません。
『学校とゆるやかに伴走すること』を読んで、そのときの公開講座のことを思い出しました。
「言葉する者(Languager)」になるための辞書あそび~「コレハヤ辞典」
今年度の大学院の授業「国語カリキュラム論演習Ⅱ」では、何回か、わたしが今、考えている言葉の教育のアイデアについて発表し、それに関わる活動なども入れながら、ディスカッションをしてもらっています。先週と今週は、2週間連続で、わたしが発表するターンだったので、2回シリーズでひとつのテーマについて取り上げることにしました。
今回2回シリーズでとりあげたテーマは、「『言葉する者(Languager)』としての学習者を育てる辞書学習」です。
「Languager」という語は、今年3月に、イースト・サイド・インスティテュートでの集中プログラムを受講した際に、Gwen Lowenheimの「日本語で遊ぼう(Playing with Japanese)」でのワークショップをはじめ、本プログラムの中で複数回か耳にした語です。わたしにとっては、Lois Holtzmanによる「Languageを動詞として捉えたい」という言葉とともに、とても印象に残っている言葉のひとつでした。
「Languager」という語についてもっと知りたくて、Holtzman先生に「Languagerについて知るためのリソースを紹介してほしい」と依頼したところ、Louis Hotzman(2015)「Vygotsky on the Margins: A Global Search for Method」の講演原稿を送っていただきました。
上記サイトのリンク先で公開されている原稿に「Languager」という語は登場しないのですが、送っていただいた講演原稿の中には、下記のような「Languager」の説明がありました。
「ヴィゴツキーの思考,話すこと,模倣,補完の特徴描写におけるひとつの示唆は,意味の形成が,言語を使用することの結果ではないということです。むしろ、言語発達のプロセス(Languagerになること)は,意味を形成するために言語を学習するというものではありません。まったく逆です。ヴィゴツキーは,意味形成が,言語形成を「先導する」ことを示唆しているのです(弁証法的に、学習が発達を先導するように)。…さらに,そのような意味形成のパフォーマンスは,ルールに支配された社会的な言語使用者になるためにも,言語形成者になるためにも必要なのです(Newman and Holzman、2013/1993, pp.112-118)」(Holtzman ,2015; 訳は引用者)
考えてみれば、わたしが翻訳に携わったキャリー・ロブマン&マシュー・ルンドクゥイスト(2016)『インプロをすべての教室へ』(新曜社)の中にも「私たちは,言語を創造すると同時に言語を使用する種でもあるという,矛盾した存在です。ヴィゴツキーが教え るように,言語とは,人間という存在が創造してきた道具であり,これからも創造しつづける道具なのです。」(p175)があり、フレド・ニューマン&フィリス・ゴールドバーグ(2019)『みんなの発達!』(新曜社)「言葉というもの!」の中にも、同様の議論はあるので、それら長年かけて醸成・共有されてきたひとつの言葉に対する見方に「Languager」という名前が与えられただけなのだと思います。
が、なにかに名前が与えられることで、わたしたちは次の動きを考えることができます。すくなくともわたしは今、これについて考えたいという気持ちでいっぱいなのです。
そんなことを考えていた矢先に、まさに「言語を使用しながら、言語を創造する」ゲームに出逢いました。それが、ピグフォン『コレハヤ辞典』です。(参考:コレハヤ辞典 完成しました! - ピグフォン:アナログ思考で作ってみよう!)
ブログ記事を見てみると、「まだ発見されていない新語を人々の意識の奥から 掬い取る画期的な仕組みを開発した」と書かれていて、「おお!」と思わずにいられません。
…というわけで、受講生たちにこれまで国語教育で経験してきた「言語を創造する」活動を思い出してもらったり、「言語を創造する」活動についてのアイデアをいろいろ自由に出してもらったりしたあとに、『コレハヤ辞典』にトライしてみました。
大学院生(近現代文学ゼミ2名、日本語学ゼミ1名、教育心理ゼミ1名)の計4名で「編集部」わけをしたところ、なぜか、近現代文学ゼミが「第1編集部」、日本語学&教育心理で「第2編集部」という結果に…いささかゲームが成り立つかどうか不安を抱えつつ、「研修」にトライ!
日本語学ゼミの学生が(なぜか)若干苦戦していたものの、5分も立たないうちに全員の新語が完成し、編集部内で新語の確認を行います。編集部内では「おおー」「わかるわかる」の声。
「これは、わかるでしょ」などと言いながら、お互いに原稿を交換し、「校正」のターンに入ったところ……事態は一変します。
「これは、わかるでしょ」と自信満々だったはずの第1編集部の新語でしたが……第2編集部、まったく復元できません…!
結果、第1編集部は「再校正」が1回かかったものの、2語とも校正完了。しかし、第2編集部は、第1編集部の新語をまったく復元できず「校正失敗」となりました。
そんなかたちででてきた4語のなかで、「これぞ」と思うものに投票をしてもらったところ、「へにへに」(チューブ状の容器の中身がなくなりかけて、ペラペラになっている様子)が、新語候補に選ばれました。
そして迎えた「本番」。
……なのですが、事態はさらに悪化。今度は(なぜか)第1編集部・第2編集部ともに、「校正失敗」となりました…!(笑)
受講生たちとのアフタートークの中では、「第1編集部は、文学とか詩しか扱ってないから」「第2編集部は、ビジネス書しか扱わないからね」など、各編集部の編集方針(?)の違いが浮き彫りになって、面白かったです。
受講生のひとりから「かなり自分に向き合った」という感想がありましたが、自分が「当たり前」に思っている言語に対する感覚や、言語を創造するときに自分が知らず知らずのうちに足がかりにしている「何か」に向き合うきっかけになるようです。
受講生の中に、非常に豊かな個人方言(idiolect)の持ち主がいることが判明したり、その受講生が、家族・親族や友人などミクロなコミュニティと複雑かつ多層的にかかわるなかで、自分自身の個人方言を編み出していることが見えてきたり、かなり、言葉を使用しながら創造する種としての人間にせまるような話が展開されていたように思います。
言葉を使用しつつ、創造する主体としての「言語する者(Languager)」になること。
そして「言語する者(Languager)」としての自分のありかた、そのスタイルを振り返ること。その意味をあらためて考えさせられました。
「コレハヤ辞典」については、11/12~11/14にパシフィコ横浜で開催される「図書館総合展」内にて、ゲーム開発者のピグフォンさんもお呼びして体験会を開催することが決定しております!
★「辞書で広がる言葉と読書~辞書を使ったゲーム~」@図書館総合展
パシフィコ横浜で開催の「第21回図書館総合展」のイベント「辞書で広がる言葉と読書~辞書を使ったゲーム~」に「コレハヤ辞典」の体験会をやってただけることになりました!
— コレハヤ辞典・クロスワイルド (@pigphone_game) October 23, 2019
11/13水曜の12時からスタート
お時間のある人はぜひ遊びに来てくださいね。#国語辞典はゲームだhttps://t.co/dO5zGy8yFU
図書館総合展での図書館たほいや企画に、ピグフォン@pigphone_game さんにお出でいただけることになり、辞書ゲームが一度に2つも遊べてしまうすごいイベントを開催できることになりました。辞書クラスタの皆さま、ぜひ。https://t.co/nNyBIPuYfp
— Kimi Ishida (@kimi_lab) October 21, 2019
ご関心のあるかたは、ぜひお越しいただければ幸いです!